前年度では、酪農学園大学附属動物医療センターにおいてヒト医療を含め日本初となるファージ療法の臨床試験を開始し、2症例に対してファージ療法を実施した。 そして、本年度では同施設において同様に犬慢性外耳炎1症例に対してファージ療法を実施した。本症例は大腸菌と緑膿菌が混合感染していたため、それぞれを溶菌しうるファージを個別に分離し、カクテル化してファージを投与した。また、昨年度までの臨床試験データから生体内においても高い確率でファージ耐性菌の出現が観察されることから、事前にin vitroでファージと分離菌を共培養することでファージ耐性菌を作出し、ファージ耐性菌を溶菌しうるファージを分離してカクテル化したファージ液とし投与した。すると、定期的に採取した病変部スワブの細菌叢解析の結果から、大腸菌はファージ投与によってほとんど排除できたことがわかった一方、緑膿菌は排除できていなかったことが明らかとなった。緑膿菌に関しては、複数種のファージ耐性菌が出現し、投与したファージのバリエーションではカバーしきれなかったことなどが考えられる。しかしながら、ファージ投与によって大腸菌を排除することができ、前年度までのデータを加味すると、実際の臨床症例に対するファージ療法の有効性を示すことが出来たと考えている。 また、前年度からファージ耐性菌に着目し、ファージ耐性菌の表現型変化についても発展的に研究を進めてきた。ファージ耐性菌の表現型の解析を進めるために、本年度の途中で国立感染症研究所に所属を移動し解析を進めることで、黄色ブドウ球菌をモデルとしたファージ耐性化に伴う細菌の病原性低下のメカニズムの一端を明らかにすることができた。
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