研究実績の概要 |
哺乳類精子の長期保存技術は、畜産や不妊治療、遺伝子改変個体を用いる研究など幅広い分野に利用される。液体窒素タンクや超低温冷凍庫を使用した凍結保存技術は広く利用されているが、維持費が嵩むことや事故・災害発生時に保存の継続が危ぶまれることなどが欠点として挙げられる。本研究では、“フリーズドライ(凍結乾燥)”技術を用いて、特殊な保存設備を一切使わずに、哺乳類精子を半永久的に室温保存する技術の実用化を目指す。 採用初年度はこの目標達成に向け、A.糖類などの試薬の添加により、フリーズドライ精子から仔が産まれる割合(出産率)の低さに対する改善効果の確認、B.真空ガラスアンプルを使用しない保存技術の開発、C.フリーズドライ処理と精子の保存状態の関係の検証を実施した。 このうち、真空ガラスアンプル瓶を使用しない保存技術の開発について、真空を維持したガラスアンプル瓶を使用するとフリーズドライ精子は室温で1年以上保存できることを報告している(Kamada, Ito et al, Sci Rep, 2018)が、ガラスアンプル瓶は割れてしまうと保存が継続できなくなってしまう。そこで研究代表者は、ガラスアンプルではなく薬包紙とプラスチック製シートを用いたフリーズドライ精子のシート保存技術を開発し、学会発表を行った(伊藤他,日本繁殖生物学会第113回大会,2020)。シート保存した精子のDNA保存状態や出産率はガラスアンプルと同程度であり、本成果は現在論文投稿中である。
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