哺乳類精子は、遺伝資源の保存を目的として多様な動物種を対象に世界中で保存され、液体窒素タンクでの保存が広く普及している。味噌汁をはじめ食品は、冷凍保存だけでなく、フリーズドライ(凍結乾燥)処理すると室温保存できる。フリーズドライ精子は1998年に初成功が報告されて以来、保存にはガラスアンプル瓶が使われてきたが、割れると精子を保存できなくなるリスクがあった。そのため、前年度は精子を薄いプラスチックシートに挟んで保存する技術を開発し、さらにハガキに貼り付けてポストから簡便に国内郵送するところまで成功した。だがフリーズドライ精子は、アンプル瓶で保存した場合1年以上室温保存できたのに対し、シートの場合は冷凍であれば少なくとも3ヶ月間は保存できたが、室温では3日間までしか保存できなかった。そこで最終年度は、室温でもフリーズドライ精子を長期保存できるシート保存技術の開発に重点を置いた。数種類のシートで1週間保存したが、室温保存の結果(顕微授精後の受精率及び発生率)は、-30℃と比較して著しく低下した。最終的に脱酸素剤と乾燥剤を精子と一緒に保存する方法を開発し、3ヶ月間の室温保存を試した全4系統のマウス精子すべてで仔マウスを作出することに成功した。本成果の一部は、日本繁殖生物学会大会やCryopreservation Conferenceで発表した。年度内に論文を発表できなかったが、追加実験をまとめ、国際誌に論文を発表する予定である。本技術が実用レベルに至れば、室温管理が可能な精子のアルバム保存や精子の国際郵送など、利便性の高い技術として社会に貢献できると考え、改良には最適な凍結乾燥保護剤について検討を進める必要がある。同時に、本研究の実用化には、遺伝資源の不正輸出など悪用を未然に防ぐための備えが不可欠であり、国際的な法整備をはじめ対策を十分に検討する必要がある。
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