研究課題/領域番号 |
20J23385
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
坂口 峻太 京都大学, 生命科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 上皮形態形成 / 1細胞トランスクリプトーム / 空間的トランスクリプトーム |
研究実績の概要 |
研究開始以前にsingle cell RNA-seq(scRNA-seq)によって、これまでにキイロショウジョウバエ(以下、ショウジョウバエ)原腸胚における細胞単位での遺伝子発現を定量済みであった。これに加え、新たに胚のイメージングによって細胞動態を定量し、遺伝子発現定量データと細胞動態定量データの統合解析を行うことで、細胞形態および細胞骨格系や細胞接着系の挙動を決定する遺伝子発現のパターンを明らかにすることが本研究の目的であった。この目的を達成するため、2020年度に実施したのは(1)共焦点顕微鏡による胚のイメージング手法の検討(2)イメージング画像からの細胞の抽出手法の確立(3)scRNA-seqデータから胚における遺伝子発現の空間パターンを再構成する手法の開発の3項目である。まず、(1) に関して報告する。蛍光マーカーで細胞膜とミオシン分子を標識したショウジョウバエ胚を用いたイメージング手法を検討した。その結果、観察対象となる原腸形成期の胚の細胞を頂端側から基底側まで撮影できた。次に、(2)について述べる。まず、(1)で検討した条件で得た画像から細胞の輪郭を頂点とそれを結ぶ辺で表現する(ポリゴン化)パイプラインを作成した。ポリゴン化した細胞データおよび蛍光標識ミオシンの輝度情報から、細胞の形状情報およびミオシンの総量と分布を取得することに成功した。(3)は計画の一環として行なった京都大学生命科学研究科本田研究室との共同研究である。scRNA-seqでは細胞の胚における位置情報が失われる。この特徴は遺伝子発現定量データを細胞動態定量データと統合するときに障害となる。そこで、既知の少数の遺伝子の空間発現パターンを基準に、scRNA-seqデータから空間情報を再構成する手法について、既存の手法よりも正確性が高い手法を開発した。これに関し、現在、論文を投稿中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度にはショウジョウバエ原腸胚のイメージングと細胞動態の定量を行い、2021年度には遺伝子発現定量データと細胞動態定量データの統合解析に移る計画であった。予定通りに、イメージング手法の確立に成功し、データ収集のためのイメージングに着手済である。また、画像から細胞の輪郭情報をポリゴン化するパイプラインを作成し、その結果を用いて細胞の形状および蛍光標識したミオシン分子の分布の定量に成功した。しかし、予定よりもデータの取得が遅れており、現在、定量データは統計解析を行う上で十分量でない。このため、2021年度に追加の定量を行う必要がある。一方で、統合解析の一環として、遺伝子発現情報の空間パターン再構成手法の確立を2021年度中に予定していたが、これを前倒しして2020年度中に確立できた。これにより胚の領域ごとの遺伝子発現をゲノムワイドに定量化することができた。この成果は今後の解析を速やかに進展させることに寄与すると期待される。以上のことから、データ取得に遅れは生じているものの、全体として計画に大きな遅れは発生せず、遺伝子発現が細胞動態を制御する法則に関して、研究期間内に新たな知見を得られると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は、まず引き続き細胞動態の定量を行い、統計的解析に十分な量のデータを取得する。データの取得が完了ししだい、遺伝子発現が細胞動態を決定する法則を明らかにするため、遺伝子発現定量データと細胞動態定量データの統合解析に移る。まずは、異なる胚から得られた細胞形状および各分子の分布に関する定量データを一つのデータセットに統合する。胚を細胞動態に関する既知の情報を基準に胚を分割し、さらに各領域を機械的に小領域に区分する。各小領域に対して各定量データを紐付け、各小領域で定量データの平均化を行う。これにより、小領域を単位とした単一のデータセットを確立する。次に、空間情報を再構成した遺伝子発現データと細胞動態データの相関関係の検出を行う。検出した相関関係をもとに、上皮形態形成制御における遺伝子発現と細胞動態の間の因果関係を推定する計画である。また、解析結果をフィードバックし、必要に応じて追加の細胞動態定量を行う。
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