研究課題/領域番号 |
20J23398
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
持田 匠 東京工業大学, 工学院, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 体内発電 / 機能的電気刺激 / 骨格筋 / 静電誘導 / エナジーハーベスティング |
研究実績の概要 |
ペースメーカなどの植込型医療機器は機器内部の電池によって駆動する.電池残量の減少に伴い数年後毎に機器交換用の外科手術を要するため,身体的および経済的な負担が大きい.この課題の解決策として体内のエネルギー源を利用し発電する体内発電システムが挙げられ,本研究では筋肉を介して体内の糖を電気エネルギーに変換するシステムを提案している. 昨年度は発電に適した筋収縮運動として不完全強縮に着目し,その特性を検証,そして不完全強縮に共振する発電機の電力を最大化する設計手法の導出を行った.この発電機構は半導体製造プロセス装置による深堀エッチング(DRIE)によって加工することを想定していたが,作成可能なばね寸法の限界が当初の想定よりも厳しく,歩留まりに課題があった.そこでより安定してばね機構を作成する加工法を確立するため,DRIE加工の特性を検証した. その結果,3インチのシリコン基板であれば100μm以上の大きさであれば安定して作成可能であることを確認し,歩留まりを向上させた発電機構の作成に成功した. また,本研究が提案する体内発電システムを実現するためには,筋肉の電気刺激による消費電力を加味した正味電力の最大化が必要である.当研究グループでは電気刺激に対して筋肉に流れる電流応答,および収縮応答に関する数理モデルを提案しており,高い再現性を得られている.そこでこの数理モデルと発電機の力学,静電誘導のダイナミクスを組み合わせ,正味電力が最大となるような発電機を設計した.筋肉への刺激電圧,刺激周波数,発電機質量,回路の負荷抵抗を設計変数としたこれらを最適化したところ,最大236μWの正味電力が試算され,植込型医療機器への供給が十分な電力が得られていることを確認した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の予定では昨年度発電機を試作し,電力評価試験を行う予定であった.しかし発電機構の製作において,想定したよりも歩留まりが悪かったため進捗に遅れが生じている.本年度はDRIE加工の特性を検証し,加工特性を考慮し歩留まりを向上させた発電機構の作成に成功している.また発電素子の作成も半導体製造プロセス装置を用いて発電機構との同時作成を想定していたが,その加工手法についても検討が必要となり,進捗にさらなる遅れが生じることが懸念された.そこで発電機の試作と評価をより迅速に行えるよう,半導体製造プロセス加工ではなく,機械加工を利用した発電機構も製作した.この発電機構と発電素子を別々に作成したのちアセンブリすることで発電機が作成できるため,当初よりも電力評価試験を迅速に行うことができる.機械加工で作成した発電機構を用いた発電機の電力評価をすることで提案する発電システムの実現性を示し,遅れた進捗を取り戻す準備を整えている.
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今後の研究の推進方策 |
半導体製造プロセス装置を用いて発電素子を作成し,発電機構とアセンブリすることで発電機を作成する.試作した発電機を用いて電力評価試験を非生体環境下で行い,所望の発電電力に達成しているか確認したのち,カエルの筋肉によって発電機を駆動させ刺激電力を差し引いた正味の発電電力が植込型医療機器の消費電力を上回っているか検証する.また,筋肉の不完全強縮,疲労を考慮した刺激制御器の設計を行うため,これらを考慮した筋肉の外部刺激に対する応答を表す数理モデルを新たに開発する予定である.
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