研究課題
先行研究において、SiC MOSFETのチャネル内キャリア散乱機構の解明を目的とした、Hall効果測定による可動電子移動度の定量が行われている。しかしながら、一般的に用いられている窒化MOSFETにおいても、界面準位が多く残存していることが判明している。したがって、可動電子移動度は、界面準位に捕獲された電子によるクーロン散乱の影響を受けると考えられる。そのため、できる限り界面準位を低減したMOSFETを用いて散乱機構を議論することが望ましい。当該年度では、様々なボディ層ドーピング密度を有するMOSFETを、リン処理という界面準位低減手法を施して作製し、散乱機構の議論を行った。リン処理を用いることで、界面準位を大幅に低減できると期待できる。Hall効果測定を行った結果、窒化処理を施したMOSFETよりも高いHall移動度が得られた。また、電子密度のゲート電圧依存性において、理論通りの傾きが得られたことから、電子捕獲の影響が非常に小さいことも明らかになった。さらに、MOSFETの実効移動度の温度依存性から、623 Kの高温ではフォノン散乱的振舞いが支配的であることを示唆する結果が得られた。続いて、MOSFETのボディ電位を変化させることにより、実効垂直電界を制御し、実効移動度の定量を行った。その結果、高実効垂直電界下において、実効移動度が急激に低下するのは、ボディ層ドーピング密度が増加することに依存するというよりもむしろ実効垂直電界が高くなることに依存することが、広い実効垂直電界範囲において判明した。
2: おおむね順調に進展している
当該年度では、高いHall移動度を有するリン処理MOSFETを用いて、実効移動度の振舞いを議論し、散乱機構について重要な知見を得ることができた。本研究では、界面準位に捕獲された電子によるクーロン散乱の影響について着目しており、学術的に意義深いといえる。
広い温度範囲で可動電子移動度を定量し、Si MOS界面の知見を基にして散乱機構の切り分けを行う。特に、高実効垂直電界下における移動度劣化について検討を行う予定である。また、得られた実験結果を基に、移動度の理論計算を併用することで、散乱機構について詳細な理解を得ることを目指す。
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Journal of Applied Physics
巻: 128 ページ: 095702~095702
10.1063/5.0013240