研究実績の概要 |
先行研究において、Hall効果測定による可動電子移動度の定量が行われているが、界面準位密度の高いSi面上酸化・窒化試料を評価の対象としてきた。そこで、本研究では、界面準位密度を極限に低減することができるリン処理を施したSi面試料や、a, m面上窒化試料について、低温・室温における電気的特性の評価を行ってきた。
前年度の研究では、ボディ層濃度を3×10^14 cm^-3から3×10^18 cm^-3までの広い範囲で系統的に変化させて、酸化、窒化、およびリン処理を施したSiC MOSFETを作製し、室温でHall効果測定を行った。その結果、リン処理を施したSiC MOSFETは、他のゲート酸化膜形成条件の試料と比べて、捕獲電子密度がおよそ1/10と非常に小さいことが判明した。また、いずれのボディ層濃度を有する試料においても、酸化・窒化試料より高いHall移動度が得られた。
当該年度では、上記の結果について解析を深めるべく、Hall移動度の温度依存性および面方位依存性に着目した。まず、77 Kの低温で、窒化あるいはリン処理を施した、幅広いボディ層濃度を有するMOSFETにおけるHall移動度を定量した。その結果、いずれの界面処理を施したMOSFETにおいても、Hall移動度は低温で低下した。しかしながら、室温から低温へ変化させた際のHall移動度の低下率は、窒化処理を施したMOSFETの場合は約19%であるのに対して、リン処理を施したMOSFETの場合は約40%と比較的高かった。また、MOSFETは従来Si面上に作製してきたが、当該年度はa面あるいはm面上にも作製し、Hall移動度の評価を行った。結果として、Si面上窒化MOSFETと比べて、a, m面上窒化MOSFETの捕獲電子密度は約0.26倍と小さく、Hall移動度は約1.5倍高かった。本成果は、捕獲電子密度の高い素子ほどクーロン散乱的振舞いが強いことを示唆しており、散乱機構の解明にあたって重要な知見を与えている。
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