研究課題/領域番号 |
20J23426
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
平島 眞吾 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 核酸 / 蛍光ヌクレオシド / 蛍光性核酸塩基 / FRET / フェルスター共鳴エネルギー移動 / ヌクレオソーム |
研究実績の概要 |
本研究は、蛍光性核酸塩基からなるFRETペアを用いて、ヌクレオソームと呼ばれるDNA-タンパク質複合体を分析することを目的とする。当該年度において、我々は(1) シトシンのメチル化を受けた際のFRET効率の測定と、(2) 異なる位置にFRETペアを導入したヌクレオソームのFRET測定、(3) 分子動力学計算に基づくFRET効率の理論値による実験結果の考察を行った。 (1) 代表的なエピジェネティック修飾であるシトシンのメチル化は、ヒストンオクタマーへのDNAの巻き付きをタイトにすることが知られている。ヌクレオソームDNAのシトシンを一様にメチル化して、FRETにより構造変化を観察できないか試みたが、有意なFRET効率の変化は見られなかった。 (2) そこで、アクセプターの位置が異なる2種類のDNAを合成して比較した。より高いFRET効率を与える配列の探索と、本FRETペアが有する配向依存性の検証が目的である。報告されている結晶構造では、ほぼ同じ距離が予想されるドナーとアクセプターの配置が異なるFRET効率を示した。 (3) (2)で得られた実験結果の考察のために溶媒分子を含む10ナノ秒の全原子分子動力学計算により、FRET効率の理論値を算出した。配列に対するFRET効率の大小関係は実験値と理論値で一致した。しかし、すべての配列に対して実験値が理論値の2割程度と低かった。この原因については現在検討中であるが、ヌクレオソーム中での蛍光塩基の消光や、結晶構造と溶液中の構造との相違などが可能性として挙げられる。 次年度は、さらなる配列の探索と、構造変化の分析を並行して進めたいと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々は当該年度において、ドナーとアクセプターの配置によるFRET効率が配向依存的であり、実験値とシミュレーションから得られる理論値に相関があることを実証した。DNA鎖のあらゆる位置に導入可能であるという、我々のFRETペアの利点を生かしてヌクレオソーム中でのFRETに関して基礎的な分析を行った。その結果、3種類のドナーとアクセプターの配置が与えるFRET効率の実験値と、分子動力学計算に基づく理論値の間に相関があることが確かめられた。本年度の成果は、次年度で行う配列の探索につながる知見である。また、構造変化の分析で使用する配列を設計する際の指針にもなりえる。 以上を踏まえ、当該研究課題は概ね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、より高いFRET効率を与える配列の探索と、ヌクレオソームの構造変化の分析を並行して進める予定である。FRETペアをヌクレオソームの中央付近や末端も含む全体への導入を試み、構造分析に用いる配列の最適化を目指す。また、蛍光量子収率や蛍光寿命を測定して速度論的な分析も行い、ヌクレオソーム中における我々のFRETペアに関する理解も深めたい。構造変化の分析としては、シトシンのメチル化や、DNAのスライドを引き起こす酵素、異なる溶液条件などによって生じる変化を研究対象として想定している。可能であれば、ヌクレオソーム間の相互作用を検出するような実験にも挑戦したい。蛍光分子がDNA鎖に収まっているため、一般的なFRETの実験系よりも小さな修飾での分析が実現できる。 以上に加えて、既に進行中の新規蛍光ヌクレオシドの研究も行う予定である。
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