本研究の目的は、蛍光性核酸塩基からなるFRETペアを用いたヌクレオソームの構造分析である。一般的なFRETペアは測定対象となる生体分子の外側に飛び出しており、想定外の相互作用などが懸念される。一方、蛍光塩基はDNAのらせん構造に収まっており、元の構造への影響が小さい。さらに、蛍光塩基は水素結合などにより向きが固定されるため、FRET効率は距離に加えて配向にも依存する。本年度、申請者は主に(1)FRETペアを含むDNAの配列探索と(2)FRET効率の実験値と理論値が異なる原因の検討に取り組んだ。 (1)前年度までは、ヌクレオソーム形成に必要な最小限の長さのDNA鎖を使用していた。当該年度においてはそれより長いDNA鎖や、FRETペアの位置が異なるDNA鎖を新たに合成し、ヌクレオソームにおけるFRET効率を測定した。しかし、いずれの場合もFRET効率の実験値の増加は見られず、前年度までの測定値と同様の値にとどまった。 (2)実験値と理論値の違いについて考察を進めた。FRET効率が低下する主要な原因であるドナー分子の消光は見られなかった。屈折率もFRET効率に影響を与えるが、ドナーとアクセプター周辺の局所的な屈折率を測定することはできない。そこで、タンパク質と相互作用していないDNAを優先的に切断する酵素で再構成ヌクレオソームを処理したところ、DNAの切断が確認できた。これはヌクレオソームDNAの両端がヌクレオソームのコアから離れ、FRET効率の低下を引き起こしている可能性を間接的に支持する結果である。 以上の研究成果をまとめた論文はChem. Eur. J.誌に掲載された。また、前年度に投稿していた含フッ素ヌクレオシドを導入したDNAの物性評価に関する論文はChemBioChem誌に掲載された。
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