本研究は,末梢神経損傷後の中枢神経回路の可塑的変化と機能回復を促進する機序を明らかにすることを目的とした.損傷後の運動機能回復を規定する一要因である脱神経期間に着目し,脱神経期間の異なる坐骨神経圧挫モデルに対する運動介入が,運動ニューロン(MN)とシナプス関連タンパク質との接触(シナプス被覆率)に及ぼす影響を検証した. 結果として,脱神経期間が短い場合,運動介入により早期の時点でMNと一次求心性ニューロン終末(VGLUT1+)との再接続が図られること,また,時間は要するものの軸索断裂後は自然治癒により再接続が図られることを示した.一方,脱神経期間を延長した場合,運動介入の有無にかかわらず,一次求心性ニューロン終末(VGLUT1+)はMNから撤退したままであった.興味深いことに,興奮性グルタミン酸作動性(VGLUT2+),GABAおよび/またはGlycine作動性(VGAT+またはGAD67+)ニューロン終末は,いずれも運動介入の有無で,MNとの接触に有意差を認めなかった.なお,運動機能評価と腓腹筋CMAP振幅は,SC-EX 群では圧挫後4週時点までSC群に比べ有意に高かった.MSC-EX群は,圧挫後4週から12週時点までMSC群に比べ有意に高かった.したがって,脊髄神経回路の可塑的変化にはMNへの求心性入力が必要であり,軸索断裂後に脱神経期間を延長することでMNへの求心性入力が遮断された状態が延長された場合,運動介入による一次求心性ニューロン終末との再接続を促進する効果は得られないことを示した.また,脱神経期間の延長により脊髄神経回路の可塑的変化が得られない場合でも,運動介入により運動機能回復や機能的回復を促進した.そのため,予後不良とされている絞扼性神経障害者の罹病期間や神経移植術における手術待機時間の長い患者においても,運動介入により機能回復を促進する可能性がある.
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