本年度は、気仙沼舞根地区の塩性湿地でのフィールド観測(①)および昨年度までに得られた成果の執筆・学術誌への投稿(②・③)を行った。 ①昨年度に引き続き、人為的な改修によって塩性湿地内の水・栄養塩環境や沿岸域への栄養塩輸送に対する地下水の影響が変化するのかを明らかにすることを調べるために、宮城県気仙沼市の舞根地区に震災後に創出した塩性湿地を対象として9月にフィールド調査を実施した。得られたデータを基に解析を行い、塩性湿地内への地下水流入量を定量化する。人為的改修後の夏季と冬季に得られたデータから得られる結果(地下水流入量や栄養塩輸送量など)と、改修前の結果(論文執筆中)を比較することで、上記の課題を評価する。 ②若狭湾へ流入する6つの河川下流域において地下水がどの程度流入しているのかを評価した成果(2020年に観測を実施)を国際誌に投稿し、受理された。この論文では、地下水の指標となる放射性物質のラドンを用いて、地下水を介して河川下流域へ流入する水や栄養塩の量を推定した。河川下流域において流入する地下水によって、河川から海へ流出する淡水や栄養塩の量が増加しており、河床勾配が大きい河川ほど地下水の混入割合が大きいことを明らかにした。 ③地下水による栄養塩輸送が一次生産を活性化しうるのかを評価した成果を国際誌に投稿した(2023年4月に受理)。気仙沼舞根湾の表層海水を採取し、栄養塩や陸水(再循環性地下水、淡水性地下水、河川水)を添加・培養し、培養前後のクロロフィルa濃度を測定した。窒素添加区および陸水の添加区では対象区(無添加)に対して有意に高いChl-a濃度を示し、窒素によって植物プランクトンの増殖が制限されていること、舞根湾へ流入する陸水の中で特に量の多い再循環性地下水による窒素供給は植物プランクトンによる一次生産を活性化しうることを明らかにした。
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