今後の研究の推進方策 |
文章題解決で生徒は図表を自発的に使わないが,図表知識を与えると認知負荷 (Sweller et al., 1998) が下がり,自発性が高まることが示された(Ayabe & Manalo, 2018)。また,図表の領域固有的知識を与えると正答率が改善した(Ayabe et al., 2020)。しかし,神経科学的機序が不明であったため,生理指標(fMRI)を使って関連を明らかにすることを目的としていた。 しかし,担当教員の指導を経て次の3点の課題として浮き彫りとなった。まず,認知負荷概念の複雑さである。認知負荷は課題の認知コスト(WM需要)と心的努力(メンタル・エフォート)の影響を受け (Schnotz & Kurschner, 2007),客観と主観が織りなす概念である。そのため,実験操作は単純ではない。次に,転移性が担保されない点である。特定の文章題における介入を検討してきたが,別の課題へ転移を促すかは保証されないので,特殊な教授法の検討にとどまる可能性がある。より一般化させる工夫が必要である。最後に,導入可能性の問題である。図表のほとんどを小学校で習う。自発性欠如の理由は図表トレーニング不足と示唆されるが,中学以降ではそれを組み込む余裕がなく,過程よりも結果(解答)が採点で重んじられるという実情が背景にある。 そこで,習慣化に着目することでこれらの問題に対処する。図表使用を妨げる要因は,認知慣性(Cognitive inertia; 証拠があるにもかかわらず,古い信念を放棄することを拒否したり嫌ったりする性質)であると考えられる。そのため,認知慣性の大きさと報酬(動機づけ)を操作することで習慣化を図る介入を考案する。 前年度から引き続いて教科書等実情調査,学校,民間企業への協力依頼を継続して多面的にデータを収集し,本研究の意義と結果の妥当性を高める。
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