研究実績の概要 |
文章題解決には図表の使用が特に有効とされるが(Ainsworth et al., 2011; Hembree, 1992),教師が図表を示して教えても生徒は自発的に図表を使用せず,たとえ使っても効果的に活用できない傾向がある(e.g., Uesaka & Manalo, 2012)。応募者はこれまでに,自発的な使用を妨げる認知コストに対処して(Ayabe & Manalo, 2018),図表の性質と推論タイプの適合性に着目したトレーニングを教授すれば,適切な図表を問題解決に効率的に使えることを実証した(Ayabe et al., 2022)。しかし,これらの知見は行動的な示唆にとどまり,神経科学的機序は不明であった。したがって本研究では,図表の宣言的知識,条件的知識,手続き的知識が認知負荷を下げて問題解決をうながす認知的なしくみを,脳‐行動の両面から明らかすることを目的とした。その結果,図表トレーニング(「表」)による行動指標(正答率,図表得点,解答時間)と生理指標(fNIRS)に関連があることを明らかにした。具体的には,図表知識を習得させる適切なトレーニングを与えると前頭領域の脳血流量(DLPFC,VLPFC)が高まった。また,問題解決中の認知負荷と関連すると考えられる解答時間と脳血流量の相関が,トレーニング提供によって消失した。これらの結果は,図表トレーニングがワーキングメモリの働きを活性化させ,文章題を解くための認知負荷を低くする効果があることを理論的に示唆する。そして,本成果を国際誌に掲載した(Ayabe, Manalo, Hanaki, Fujita, & Nomura, 2022)。
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