R4年度は、R3年度に続き樹状突起の局所領域におけるシナプス可塑性モデルの構築を行った。シナプスクラスタの形成原因として、シナプス可塑性に必要な可塑性関連タンパク質(PRP)が複数シナプスで競合的に利用される現象に着目した。数理モデルを用い、シナプスクラスタ統合の選択基準が、シナプス数、樹状突起のPRP量、刺激タイミングにどのように依存するか検証した。 PRPが枯渇している状況では、刺激間隔が短い場合と長い場合で増強傾向が異なることが示唆された。短い間隔では繰り返し刺激されたシナプスが増強され、長い間隔では強い刺激を受けたシナプスとの刺激の近時性に基づき弱い刺激を受けたシナプスの増強が変化した。PRPが枯渇していない状況では、全シナプスが増強され、樹状突起レベルでクラスタ形成が過剰になることが示唆された。 全体として、PRPの分布が可塑性の調節に重要であることが示唆された。PRPが一様に分布していない場合、シナプスクラスタの形成は局所領域で異なる可能性がある。クラスタ統合基準の違いは、錐体ニューロンの計算特性を多様化し、領域依存的な役割分担を実現する。PRPは概日リズムや睡眠・覚醒制御を受けるため、時間帯や睡眠・覚醒状態によってクラスタ形成傾向が変化し、これが学習・記憶の概日依存性や睡眠・覚醒依存性に影響するかもしれない。 上記成果は、PLOS ONEに「A computational model to explore how temporal stimulation patterns affect synapse plasticity」という題名で投稿された。さらに、空間的に拡張したモデルで概日リズムと睡眠・覚醒状態がシナプス可塑性に与える影響を評価し、博士学位論文としてまとめた。今後の研究で、これらの知見が記憶や学習に関連する神経メカニズムの理解に寄与することが期待される。
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