研究課題/領域番号 |
20J23653
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
米村 開 名古屋大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | バイオ触媒 / シトクロムP450 / 酸化反応 / 擬似基質 / 等温滴定型カロリメトリー / X線結晶構造解析 |
研究実績の概要 |
巨大菌由来のヘム酵素であるシトクロムP450BM3(P450BM3)は、長鎖脂肪酸の水酸化で極めて高い触媒活性を示す。その高い触媒活性はベンゼンなどの非天然基質の水酸化への応用が期待されるが、基質特異性が高いため、通常は長鎖脂肪酸以外の基質は水酸化できない。一方、当研究室は、長鎖脂肪酸と似た構造を有しながらも鎖長の短い分子、擬似基質(デコイ分子)を添加すると、野生型P450BM3がベンゼンなどの非天然基質を水酸化することを明らかにしており、この反応系を基質誤認識システムと名付けた。近年では、我々は合理的に設計されたスクリーニング手法により新規高活性デコイ分子を開発することに成功している。本課題では、等温滴定型カロリメトリー(ITC)を用いたデコイ分子とP450BM3の相互作用解析とX線結晶構造解析により、デコイ分子の結合がP450BM3の構造と機能に与える作用を明らかにすることを目指した。 当該年度は、まず、ITCでの測定条件の検討を行った。バッファーの種類、バッファー濃度、pH、塩濃度、リガンド濃度、タンパク質濃度などを検討し、滴定実験中にタンパク質が安定な条件を決定できた。決定した測定条件下で、種々の長鎖脂肪酸およびデコイ分子の滴定実験を行った。その結果、天然基質、デコイ分子共にP450BM3への結合はエントロピー駆動であることが明らかにされた。また、その熱力学プロファイルもほぼ同じであり、デコイ分子は天然基質とは大きく異なる骨格を有しながらも、似た認識機構でP450BM3の基質結合部位に取り込まれていることが明らかにできた。 さらに、非天然基質-デコイ分子-P450BM3の三者複合体の結晶を得ることができ、X線結晶構造解析に成功した。非天然基質はデコイ分子によって酵素活性中心へと押し込まれ、タンパク質を構成するアミノ酸の側鎖と相互作用することで基質内部に固定されていた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
疎水性の高いデコイ分子は水溶液に難溶であるため、ITCによるタンパク質との分子間相互作用解析はこれまで困難であった。しかしながら、本研究では種々の条件検討により困難な測定を可能にし、予定通り詳細なデータを得ることに成功している。さらに、本年度は、これまで達成できていなかった非天然基質-デコイ分子-P450BM3の三者複合体の結晶の作製に成功しているため当初の計画以上に進展していると評価している。今回新たにタンパク質との共結晶が得られた非天然基質と金属タンパク質との共結晶の作製は報告例が無く、X線結晶構造解析により構造生物学分野への大きな貢献が期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、多種多様な天然基質とデコイ分子のP450BM3への結合をITCにより解析し、分子構造とタンパク質による認識機構の関係を調査する。また、今回共結晶が得られたもの以外の非天然基質についてもP450BM3との結晶化に取り組み、非天然基質の配向や取り込み方の違いを議論する。さらに、得られた結晶構造を基に分子動力学シミュレーションを行い、基質のタンパク質内部での動きを可視化する。
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