研究課題
本研究では、効率的な観測を可能とする広帯域導波管回路を開発し、世界でも最高分解能・最高感度クラスを持つALMA望遠鏡やブラックホールの観測に成功したVLBIの次世代受信機を構成する回路として提案することを目標としている。本研究で目標の一つとしていた片偏波広帯域同時観測を実現するために、比帯域56%という広帯域な周波数4分配器を設計・製作し、情報通信研究機構にある高周波ネットワークアナライザを使用して周波数特性の測定をした。開発した周波数4分配器を超伝導SIS-Mixerに接続し、冷却下での実験も進め、分配器による大きな雑音温度の上昇などもない結果を得ることができた。上記の受信機を大阪府大が運用・開発を進めてきた口径1.85mの電波望遠鏡に搭載するにまで至った。一方、広帯域偏波分離器の開発も進めている。本研究では、直交偏波分離器と円偏波分離器の広帯域も目標としている。広帯域な円偏波分離器を開発するために、90度位相遅延器と直交偏波分離器を用いた円偏波分離器を採用している。プロトタイプとして開発してきた円偏波分離器から得た知見を元に、設計のアップグレードをした。その結果、両回路の設計を大幅に進めることができた。位相遅延器については、これまでリッジ型とコルゲート型の2種類の異なる周波数依存性を持つ回路を組み合わせることで広帯域な位相遅延器の開発を進めてきたが、今までの設計では比帯域50%程度しか得ることができず、さらに位相遅延量が90±10度程度が限界であった。今回、3種類の回路を組み合わせ、比帯域54%の広帯域で90±5度程度を実現できるような回路の設計に成功した。さらに直交偏波分離器については、反射損失が20dB以上(入力強度の1/100)の低損失な設計を得ることができた。
1: 当初の計画以上に進展している
開発した広帯域導波管周波数4分配器を受信機に組み込んで評価を行い、望遠鏡への搭載を経て天文観測に実用できたことは大きな進展であると考えている。今まで2つの受信機で観測していた周波数領域を、この方式では一度に観測することが可能となり、効率的な観測が期待できる。この結果は令和3年3月に論文としてPASJに投稿した。一方で、直交偏波や円偏波を分離する回路の広帯域化も進めている。特に円偏波分離器に関しては、これまで問題であった位相遅延の周波数依存性を解決するために、異なる周波数依存性を持つ位相遅延器を組み合わせることで広帯域な位相遅延特性を得ようとする新たな方式の開発を進め、設計の段階ではあるが、非常に良い結果が得られた。この直交偏波分離器に関しても、広帯域に反射損失20dB以上を持つ低損失な設計が得られている。以上、開発目標としていた3種類の導波管回路において、十分な研究成果が出ている。特に、偏波分離器の設計では、来年度以降に進める予定であったため、当初の計画以上の研究の進展があったと考えている。
前年度までの開発で、低損失な直交偏波分離器の設計を得ることができた。本年度では、本回路の測定を進める。測定には、情報通信研究機構にある高周波VNAを使用する。シミュレーション通りの結果を得ることができれば、位相遅延器と組み合わせるために必要な円形-方形導波管変換と円偏波分離器を組み合わせた45度導波管変換の設計を進める。 さらに、新たに設計した位相遅延器についても測定を進める。位相遅延器は、これまで製作してきたプロトタイプからの改良点が多く、シミュレーション結果と測定結果に加えてレーザー3次元測定なども行い、切削による回路の設計からのズレを求め、再度シミュレーションに応用する予定である。
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Proc. of Society of Photo-Optical Instrumentation Engineers Conference
巻: 11453 ページ: 114534F-1-8
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http://www.astro.s.osakafu-u.ac.jp/news/2020/20201117.html
http://www.astro.s.osakafu-u.ac.jp/news/2021/20210301.html