研究課題/領域番号 |
20J23678
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
川原 巧 名古屋大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 含ヘテロ縮環π拡張反応 / 含ヘテロナノカーボン / 含硫黄縮環π拡張(thia-APEX)反応 / チオピリリウム / S-コハク酸イミド化アレーンチオール / 一段階反応 / 多環芳香族化合物 |
研究実績の概要 |
含ヘテロナノグラフェンなどの含ヘテロ多環芳香族化合物(hetero-PAC)は、ヘテロ芳香環の縮環構造に応じて特異な光電子物性を示す機能性化合物群である。 しかし、従来のhetero-PACの合成法は基本的に多段階であり、効率的にhetero-PACを合成する手法が望まれている。そこで本研究では、入手容易な芳香族化合物と適当な含ヘテロ芳香族化合物(π拡張剤)から一段階でhetero-PACを簡便に与える「含ヘテロ縮環π拡張反応(hetero-APEX反応)」を新たに開発し、多様なhetero-PACの創製を目指す。 今年度本研究員は、S-コハク酸イミド化アレーンチオール(π拡張剤)を用い、多環芳香族チオピリリウム塩を一段階で与える含硫黄縮環π拡張(thia-APEX)反応を開発した。本研究員は、トリフルオロメタンスルホン酸を含むヘキサフルオロ-2-プロパノール中で本π拡張剤が活性化され、フェナントレン誘導体をはじめとする種々の芳香族化合物に作用することを見出した。すなわち、本π拡張剤を用いることで、官能基化されていない芳香族化合物を対応する多環芳香族チオピリリウム塩へと変換することが可能となった。また、π拡張剤に対して、アルキル鎖を有するコハク酸イミド脱離基を導入することで、生成した多環芳香族チオピリリウム塩は容易に単離することが可能であった。さらに、本研究員は得られた多環芳香族チオピリリウム塩が長波長領域の光を吸収し、濃赤色や濃青色といった特徴的な溶液を形成することを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
色素分子が簡便に得られた点とthia-APEX反応の機能化学的応用展開を踏まえ、本研究が当初の計画以上に進展していると評価する。本反応を用いることで、フェナントレンやピレン、コラニュレンなどの多環芳香族炭化水素から、濃赤色や濃青色といった特徴的な光吸収特性をもつ化合物が簡便に得られた。すなわち、本thia-APEX反応は芳香族化合物を迅速に色素化する手法として有用である。入手容易な芳香族化合物から多様な色素が得られる点は新規色素材料の探索に有利であり、thia-APEX反応の合成有機化学的・機能化学的有用性を大いに示している。また、チオピリリウムは求電子的なカチオン性骨格である。そのため、外部環境(たとえば外部求核剤の有無)に応じて光吸収特性を変化させる応答性色素の開発に、本thia-APEX反応が貢献することも期待される。
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今後の研究の推進方策 |
【thia-APEX1】 より複雑な分子骨格をもつ多環芳香族チオピリリウム塩の合成を実施する。具体的には、より高度に縮環したS-コハク酸イミド化アレーンチオールπ拡張剤を新たに合成し、thia-APEX反応に適用する。そして、得られたthia-APEX反応生成物をショール反応や光環化反応などを用いてさらに閉環させ、カチオン性含硫黄ナノグラフェンの合成を目指す。 【thia-APEX2】 S-コハク酸イミド化骨格を利用して、別の含硫黄骨格を与えるようなthia-APEX反応を開発する。たとえば、二つの硫黄原子架橋構造からなるチアントレン骨格はリン光発光材料への応用が期待されているため、チアントレン骨格を一段階で芳香族化合物に拡張するようなthia-APEX反応の開発に着手する。 【その他】 得られた多環芳香族チオピリリウム塩やカチオン性含硫黄ナノグラフェンの機能性試験の検討。たとえば、酸化還元特性やリン光発光特性、水やチオールなどに対する応答性などを評価する。
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