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2020 年度 実績報告書

中国絵画理論の転機としての徽宗朝――文人画・院体画思想の史的展開――

研究課題

研究課題/領域番号 20J23689
研究機関京都大学

研究代表者

王 歓  京都大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)

研究期間 (年度) 2020-04-24 – 2023-03-31
キーワード逸品 / 文人画 / 墨戯 / 北宋
研究実績の概要

本研究の目的は、画論文献と作品実物を照らし合わせて考察し、徽宗朝の絵画思想の全体像を把握することである。そのため、今年度はこれまでの研究を踏まえた上で、まず宋代芸術批評史上における重要な概念である「逸品」を取り上げて検討した。唐から宋にかけて「逸品」に対する解釈はどのように変化していったのか、について解明した。
絵画品評における逸品という概念は唐代より使い始められた。中唐の朱景玄と北宋初期の黄休復が逸品にそれぞれ意味を付与したが、従来の研究者は両者の考えを同一視し、形象を軽視した伝統的画法に反する絵画を逸品の枠に収めて考えてきた。このような特徴は文人が作った墨戲にも具備しているため、北宋期の文人画は中唐の逸品画より導き出されたものとみなされている。
しかし、唐・宋の画論テキストに対して綿密な文献読解を通じて、唐と宋では逸品に対する認識に顕著な差異があることがわかった。朱景玄と黄休復それぞれが提示した逸品は、その評価基準が異なる一方、画面様式上の共通点がある文人画と逸品画とも別の流れのものであることを明らかにした。
また、画法を守る上で作られた緻密で写実性の高い院体画は、自由な性格を持つ逸品画や文人画と対立するものとみなされている。例えば、鄧椿は徽宗皇帝が画技と写生を重視したため、それらを軽視する傾向がある逸品を次位に置いたと指摘した。しかし、徽宗朝の院体画は逸品の特徴も備わっており、鄧椿が徽宗に与えたこの評価は、彼が再構築した「逸品」と関わりがあるのではないかと考えている。したがって、本研究ではさらに鄧椿の絵画観について検討を加え、彼が逸品に付与した新たな意味とその意図を明確化した。
本年度は、北宋における「逸品」の意味の変遷に対する考察を通じて、文人画と院体画に通底する要素を明らかにした上で、徽宗朝の絵画思想の性格についても一歩踏み込んだ理解ができた。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本研究の目的は思想史の視点から徽宗朝及び両宋時代の絵画理論について考察し、その全体像を把握することである。宋時代、特に北宋の現存する作品は少数であるため、当時の絵画作品及びその思想を理解するには、文献資料を正しく解読することが不可欠であると考えられる。一方、文献収集・分析は重要であるが、絵画理論というのは絵画と切り離せないものである。したがって、文献資料の整理・解読と並行し、京都で開催された展覧会で実物調査も行った。後世に作られた五代や宋代の模写作品、例えば、伝貫休の「羅漢図」、伝李公麟の「維摩像」、また南宋時代の仏画などを数多く実見することができた。以上より、本年度は画論文献にあたって綿密な解読を行い、実作品と照らし合わせながら、当時の文人画研究にとって重要な概念である「逸品」を取り上げて詳細に検討し、徽宗朝の文人画と院体画に通底する要素を明らかにした。概ね計画通りに研究は進んでいる。

今後の研究の推進方策

今後は、文献記述と作品を照らし合わせながら、徽宗朝における仏教思想と絵画理論との影響関係について多角的に検討して研究を進める予定である。宋代は儒仏道三教が合流した時代とみなされている。そのため、当時の絵画理論を考察する際には、仏教や道教思想からの影響も等閑視できない。宋代以後、宗教画に代わり山水画や花鳥画が絵画の主流となっていったが、徽宗朝に編纂された『宣和画譜』の筆頭には依然として宗教的な「道釈門」が取り上げられており、仏道を題材とする絵画も多数収録されている。また、文人も仏道思想からの影響が大きかったため、このような思想の傾向も当時の文人画制作に反映されている。
したがって、徽宗朝の絵画理論を一歩踏み込んで理解するために、本年度は絵画理論と実物作品の両面から徽宗朝の宗教画に着目し、とりわけ当時の宗教政策、文人と禅僧や道士との交遊関係、お互いの絵画に対する見解は如何に影響を及ぼし合っていたのか、また禅思想が当時の絵画理論や絵画創作にどのような影響を与えたのか、といった点について考察していきたい。
そのほか、南宋期に流行っていた禅僧が作った墨戯や減筆人物画は、北宋期の文人画と同じく中唐の逸品画の系譜上にしばしば数えられるものである。様式上から見れば、三者は同じく余技の絵画として、院体画と対立するものと言える。ただし、異なった絵画観を持つ三者を、一様に「逸」の枠に収めることは適切とは言えない。従って、本年度の逸品と文人墨戯との相違を比較した研究成果に基づいて、今後は、南宋における禅僧墨戯と逸品の関係性に着目して研究を進めていこうと考えている。

  • 研究成果

    (1件)

すべて 2021

すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件)

  • [雑誌論文] 北宋繪畫論における「逸品」の變容2021

    • 著者名/発表者名
      王歓
    • 雑誌名

      日本中国学会報

      巻: 73 ページ: ー

    • 査読あり

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公開日: 2021-12-27  

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