本研究では、糖転移酵素が独特な細胞内空間に局在して糖鎖形成を促すメカニズムの解明を目指している。これまでの研究で、それぞれの糖転移酵素はゴルジ体内の固有の区画に局在している可能性が示唆されている。こうした酵素の細胞内における配置が糖鎖修飾の制御と密接に関わっていると想定し、ゴルジ体における 糖転移酵素の局在に着目した研究を展開した。 昨年度までに、近接依存性標識法によって糖転移酵素を取り巻く分子のネットワークを捉えることが可能であり、それによって得られた知見に基づいて酵素の細胞内局在を探ることができるという可能性が浮き彫りになった。そこで、本年度は、さまざまな複合糖質の糖鎖形成に関わる糖転移酵素について、近接依存性標識法による分子ネットワークの探査を行った。具体的には、近接標識されたタンパク質を酵素間で比較し、20種類の酵素を対象に、分子ネットワークを構成するタンパク質の種類と量の類似性に基づいてクラスター分析を行った。その結果、N型糖タンパク質とプロテオグリカンの糖鎖形成にかかわる酵素は異なるクラスターに属することが明らかとなった。また、N型糖鎖修飾を担う糖転移酵素を2つのクラスターに分類することができた。さらに、糖転移酵素の変異体を用いることで、糖転移酵素を取り巻くタンパク質のネットワークは、糖転移酵素の膜貫通領域付近の構造によって規定される可能性も示唆された。 以上の方法を用いて同定された分子ネットワークの中には、糖タンパク質中の分子暗号を読み取ってその細胞内輸送を司る分子複合体や、糖転移酵素との相互作用を仲介する分子も含まれていることが明らかとなった。こうした情報解析を通じてタンパク質の分泌経路における糖鎖修飾の制御機構を探究するうえで有用な知見をもたらすことができる。
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