研究課題/領域番号 |
20J23724
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
木村 拓哉 大阪府立大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | リチウムイオン伝導体 / 硫化物 / 大気暴露 |
研究実績の概要 |
本年度は,大気暴露in-situ XRD測定が可能な装置系の構築と,硫化物電解質の大気暴露による結晶構造変化について評価・解析を行った. スズを用いた硫化物系電解質Li4SnS4のイオン伝導度は25℃において1.1×10-4 S cm-1と比較的高いことが知られている.また,相対湿度70%の雰囲気に暴露した際においても,硫化水素が発生しないことがわかっている.しかしながら,大気暴露時の構造変化や硫化水素が発生しないメカニズムについては明らかになっていない. そこで本年度は,大気暴露させながらXRD測定が可能な装置系を構築した後,大気に曝しても硫化水素が発生しにくいことが明らかになっているLi4SnS4をモデル試料として用い,条件検討および構造変化の評価・解析を行った. メカノケミカル処理後,260℃で熱処理し作製したLi4SnS4電解質では,準安定相であるhexagonal相が析出していることがわかった.この粉末試料を室温25℃,露点-20℃の環境下(相対湿度4.0%)で大気暴露in-situ XRD測定を行った結果,大気暴露後2時間でXRDパターンが大きく変化し,帰属不明なピークが観測された.また,帰属不明なピークは,正方晶系で指数付けが可能であった.この未知結晶に対して構造解析を行うとLi4SnS4が水和した新規相Li4SnS4・4H2Oであることが明らかになった. この水和物のイオン伝導度は10-9 S cm-1程度と低いことがわかった.さらに,この水和物を260℃で熱処理すると,無水物になりイオン伝導度が10-4 S cm-1程度に回復することがわかった.これらのことから,Li4SnS4は大気に暴露した後,適切な熱処理によって,イオン伝導性をもつ構造に戻ることが明らかになった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
スズを用いた硫化物電解質Li4SnS4の大気暴露時の構造変化の解析に取り組んでおり,過去に報告されていない新規な水和物Li4SnS4・4H2Oが存在することを見出した.また,水和物の結晶解析にも取り組んでおり,モデル構造の構築後,Rietveld解析により構造パラメータを精密化し,結晶構造を決定している.また,熱処理により水和物から水が脱離することで無水物になり,イオン伝導度が回復することを見出している.その結果,加水分解反応が起きずに水和物が形成されることによって,硫化水素が発生しないという硫化水素の発生抑制メカニズムが明らかになった. 新規な水和物の作製・結晶構造解析や硫化水素の発生抑制メカニズムの解明が進んでいることから,研究は順調に進展していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
引き続き,新規なリチウムイオン伝導性窒化物電解質や元素選択戦略に基づいた耐湿性硫化物系電解質の新規探索および結晶構造解析に取り組む.また,水和物について得られた知見を活かして,水溶液を介した固体電解質の合成法の検討についても取り組む.
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