研究課題/領域番号 |
20J23739
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研究機関 | 滋賀県立大学 |
研究代表者 |
久岡 知輝 滋賀県立大学, 環境科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | ミバエ / 不妊虫放飼法 / 繁殖干渉 / 検疫害虫 / スペシャリスト / ジェネラリスト / 寄主植物 / 系統 |
研究実績の概要 |
ミバエ類の防除を考える上では防除に関連する技術の開発はもちろん各種の生態的知見の獲得も早急に取り組むべき課題であると考えられる。例えば、ある地域でのミバエの生活史特性を知ることができれば、より有効な防除対策を策定できるかもしれない。また、様々なミバエ類を調査することにより,寄主利用や繁殖行動などの普遍的なパターンが見つかるかもしれない。そこで本研究では国内で採集可能なナスミバエBactrocera latifronsやカボチャミバエZeugodacus depressus、ミスジミバエZ. scutellatusを対象に調査した。 ナスミバエに関してはその遺伝解析を行うことで、沖縄県への本種の侵入と分布拡大経路を推定することを試みた。本種は現在沖縄県に蔓延している深刻な検疫害虫であり,過去に二度沖縄県に侵入した経緯がある.そして,この2 つの侵入個体群は,侵入の時期と侵入地域の地理的な距離から,侵入源の異なる系統である可能性が考えられる.さらに,両者は利用する植物の選好性が異なっていることが指摘されている(前者はナス・後者はトウガラシに高い選好性を示す).そこで,本研究ではナスミバエ侵入個体群の遺伝解析を行うことで,沖縄への本種の侵入と分布拡大経路の推定を試みた. ミスジミバエ、カボチャミバエに関しては生態学的な調査を行った。ミスジミバエの分布域である滋賀県でミスジミバエの寄主植物とされているカボチャとキュウリを、カボチャミバエの分布域である長野県でカボチャミバエの寄主であるカボチャを栽培し、その寄主利用パターンを観察した。また,ミスジミバエに関してはその主要寄主植物であるキカラスウリの利用状況も併せて調査した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
果菜の世界的な大害虫であるミバエ類、特にミカンコミバエとウリミバエを対象としてその生態を調査し、繁殖干渉を利用した新たな生物防除策を構築し、提案することを本研究では目標としている。そのため、両種が自然分布する台湾や東南アジアなどにおいて調査・研究を行う予定であった。しかし、COVID-19 の世界的な流行により海外調査が不可能になった。そのため、国内で採集可能なナスミバエやカボチャミバエ、ミスジミバエを対象にその食害パターンや寄主利用パターンの解明に取り組んだ. ナスミバエの遺伝解析では、まず解析に有効な分子マーカーの探索を行なった。その結果、遺伝解析にはミトコンドリアCOIIおよびND4、核遺伝子のcryptchrome-1が有効であることがわかった。そこで、過去に与那国島に侵入した個体群と現在沖縄に蔓延している個体群のミトコンドリアCOII領域でPCR、ダイレクトシーケンス解析を行なったところ、両個体群は系統的に離れている可能性が高いことがわかった。また、現在与那国島に侵入した個体は過去に根絶された個体と遺伝的に類似していることもわかった。このことから現在沖縄県に蔓延している個体群は過去に侵入した与那国個体群とはまったく別の侵入経路を辿っていること可能性があることがわかった。一方で、現在と過去に侵入した与那国の個体群は全く同じ侵入経路を辿っている可能性が示唆された。 ミスジミバエ,カボチャミバエの寄主利用パターンを観察した結果、同じ植物でも食害部位が異なる(前者は花、後者は果実)ことが分かった.ミスジミバエは主要寄主であるカラスウリ類の開花以前はカボチャの雄花を積極的に利用していたが、キュウリは全く利用していなかった。調査地付近のキカラスウリ開花時にはカボチャからも出現しなくなり,開花したキカラスウリから多く観察され,季節ごとに寄主を転換している可能性が考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
ミバエ類は果実に産卵し、その幼虫が果実内部を摂食することにより大きな農業被害をもたらしてきた。そのため、ミバエ類による寄主植物の食害パターンを解明することは防除を考える上で重要な知見となりうる。 ナスミバエの食害パターンは与那国で過去に根絶された個体群と現在の沖縄本島に蔓延している個体群とで大きく異なっていることが指摘されていた。また、本研究により侵入源も異なっている可能性が示唆された。しかし、サンプル数が少ないため、沖縄本島と与那国のナスミバエのサンプル数を増やして遺伝解析をする必要がある。また、ナスミバエは沖縄本島と与那国以外の周辺の島々にも定着しているため、それらも含めて遺伝解析を進めていこうと考えている。 また、カボチャミバエとミスジミバエに関しては、本研究により同じ植物でも食害部位が異なることが分かった.両種は同じカボチャを加害したが,本研究によりミスジミバエはカボチャの花を、カボチャミバエはカボチャの果実を加害し,食害部分も異なっているため,資源競争も生じにくいこと示唆された。しかし、両種は棲み分けをしていることが指摘されている。カボチャミバエは冷涼な地域にいることが報告されているが、沖縄県北部に生息していることも報告されており、気温以外の要因があることを示唆している.これらのことから繁殖干渉により両種がすみ分けているという仮説が考えられる。そのため、今後は両種の繁殖干渉について解明する予定である。 また、これらとは別にCOVID-19の影響で中断していた本来の研究目的であるウリミバエとミカンコミバエの生態調査を熱帯アジア地域で実施し、種間関係を解明していこうと考えている。
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