研究実績の概要 |
本研究の目的は、量子ドット(QD)インクを使った、発光波長可変な「電流注入型QDレーザー」を実現することである。本年度は、1.「異なるサイズのシリコンQD(SiQD)を活性層に具備した逆構造型発光ダイオード(Si-iQLED)の発光特性評価と断面電子像解析」及び2.「Si-iQLEDの高発光効率化」の項目について研究を実施した。 1)5種類の異なるサイズのSiQDを作製しサイズごとにSi-iQLEDを作製し発光特性を調べたところ、QDのサイズに応じて橙色から深赤色の間で発光波長を変調することに成功し、さらにいずれの発光波長帯においても高輝度化を実現した。次に高輝度化のメカニズムを調べるためにデバイスの断面電子像解析をしたところ、高電圧駆動後のデバイスにおいても当初の層構造を保持していることが明らかになった。それゆえ高電圧駆動時でもデバイスが劣化しにくく、従来よりも遥かに高い輝度が実現したと結論付けられた。これらの成果は国際学会:MANA International Symposium 2020 jointly with ICYSで発表し、また国際学術論文誌:Journal of Physical Chemistry C 2020,124,42,23333-23342に掲載された。 2)高速液体クロマトグラフィーを用いてSiQDを精製し、速やかに当該QDを活性層に組み込むことで外部量子収率(EQE)が12%の赤色発光Si-iQLEDの作製に世界で初めて成功した。当該EQEの増強メカニズムについてSiQDのキャリア易動度の観点から解析したところ、"精製直後のQD"ではそうでないQDに比べて電子及び正孔易動度がいずれも増大していることを見出した。それゆえSiQD内でのキャリア注入バランスが向上し、Si-iQLEDの高発光効率化が実現したと議論された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究計画の進展を判断した理由は、次の2点に帰着する。 (1)従来、発光波長の変調性は順構造型SiQD発光ダイオードにおいて報告されていたが、高電圧駆動下での発光安定性が低かった。しかし本項目により、逆構造型SiQD発光ダイオードにおける発光波長の変調性を明らかにし、さらに高電圧駆動下でも安定発光し、高輝度化が実現できた。 (2)本項目により、「SiQDを発光層に具備した"赤色"発光ダイオード」のEQEが従来の最高値6.2%(ACS,Appl.Mater.Interfaces,2018,10,6,5959-5966)を超える12%を実現した。それゆえ、SiQDの電流注入型QDレーザーへの応用可能性が高まった。
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