2022年度は新型コロナウィルスの影響で調査地であるタジキスタンでフィールドワークを行うことが困難であったため、2019年までに収集したデータのグロス(原語の文法機能と訳を注解したもの)付けを行った。作業の際に現れた不明点はまとめて母語話者とのオンライン通話で解決を図ったが、回線や回数の都合上の制約もあり、一部が未完了のまま残った(後に2023年度に行った現地調査で解決済)。現地調査可能な地域でルシャン語と同じイラン語派で似た格配列パタン(主語と直接目的語、及び動詞の変化がどんな手段で表されるかのパタン)を有する言語を模索していたところ、アゼルバイジャンのタリシュ語母語話者に対して現地調査を行う機会を得た。そのため、事前に資料調査を行い、指導教官の同意を得て2022年8月にアゼルバイジャンにて約1ヶ月の初期調査を行った。この調査では基礎語彙を中心に語彙約500語の収集、母語話者同士による自然談話の記録(音声の録音・文字起こし・訳・グロス付け)及びこれらの資料と調査票を元に格配列パタンの特徴のスケッチを行った。その結果、人称の一致標識が現れる位置やその義務性等についてルシャン語とは異なるふるまいを見せることが判明したため、今後他のイラン系言語の格配列パタンとも対照しながら、類型論的な説明を与える。 2023年度はタジキスタンでの現地調査を行うことができたが、実際の調査期間は当初の予定から大幅に短い20日程度であり、参照可能な資料を拡大するため、今回のフィールドワークでは新しい自然談話の収集及びグロス・訳付けと、2019年に収集した、まだ文字化されていない音声資料の文字起こし及びグロス付けを重点的に行った。 これらの調査から得られた結果は現在執筆中の博士論文の主要部分を占める予定である。
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