3種類のF2集団におけるQTL-seq解析により非開花性に関与する有意なQTLを検出し、QTL解析によりQTL領域をリファレンスゲノムの第9染色体50.2Mbから51.5Mbの約1.3Mbに対応する領域に狭めた。この領域には241遺伝子が座乗しており、シロイヌナズナの開花時期関連遺伝子のホモログが4つ存在した。野生型T15と不抽苔においてRNA-seq解析を行ったところ、これら4遺伝子のうち2遺伝子が葉および茎頂の両方で有意に発現変動(不抽苔で高発現)していたことから、これら 2遺伝子を非開花性の原因候補遺伝子として特定した。2遺伝子はともに春化経路を統御する花成抑制遺伝子として知られるFLOWERING LOCUS C (FLC)のホモログであるBoFLC1であり、タンデムに並んでいた。経時的な発現解析の結果、通常の開花性をもつキャベツでは2つのBoFLC1発現量が冬季に徐々に低下した一方で、 不抽苔では恒常的に高発現していることが明らかになった。 3年間にわたる栽培調査の中で、不抽苔自体も偶発的に開花すること、T15も長期間栄養繁殖を続けると非開花性になるうることを見出した。このことから不抽苔の開花特性がエピアレル(DNA配列の変化を伴わないエピジェネティックな制御を受けるアレルで、準安定的な遺伝性と可逆性をもつ)に制御されている可能性を考えられた。そこで、低温に応答して開花した不抽苔と不抽苔プロトプラスト再生個体(開花能力が復帰)の自殖後代、および接ぎ木で開花させた不抽苔穂木の自殖後代(非開花性を維持)を得て、開花特性の遺伝様式・挙動がエピアレルの特性と合致するかを調査した。その結果仮説が支持され、さらに2つのBoFLC1発現量と開花特性の間に有意な相関があったことから、これら2遺伝子が‘不抽苔’の開花/非開花を制御するエピアレルであることが示唆された。
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