研究課題
本年度は脳動脈瘤の破裂予測が可能な人工知能のアルゴリズム構築を目指す上で,学習に必要な各種情報を収集するとともに,構築したアルゴリズムの評価を主な課題として研究を実施した.医療情報のみを考慮した脳動脈瘤破裂リスク予測モデル,及び臨床情報,形態情報,数値流体力学(CFD: Computational Fluid Dynamics)解析情報の3種類の情報を考慮した脳動脈瘤破裂リスク予測モデルの2種類の予測モデルを構築し,両者を比較する調査を行った.中型サイズの脳動脈瘤計338症例について臨床情報19種類,形態情報20種類,数値流体力学解析情報429種類を抽出し,3種類の機械学習モデル(Light GBM, XGBoost, SVM)を用いた破裂リスク予測モデルの構築を行った.臨床情報のみを対象に機械学習を行ったところ,破裂リスク予測における最終的な感度,特異度はLightGBMのときにそれぞれ0.514, 0.498となった.一方,臨床情報,形態情報,数値流体力学解析情報の3種類の情報に対する機械学習の結果得られた感度,特異度はXGBoostのときにそれぞれ0.771, 0.815であった.感度,特異度いずれについても臨床情報のみを考慮する場合と比較して,臨床情報,形態情報,数値流体力学解析情報の3種類の情報を考慮したほうが高い値を示していた.脳動脈瘤破裂予測が可能なアルゴリズム構築を目指す上では,臨床情報のみならず,形態情報,数値流体力学解析情報を総合した情報に対する学習を行うことが,予測精度向上に重要である結果となった.本年度は以上の研究結果を始めとして,国際学術雑誌に計2報の論文として公表した.また,学会発表として国内学会にて計11件,国際会議にて計5件の報告を行った(共著含).その他,招待講演として1件の発表を行うなどした.
2: おおむね順調に進展している
本年度は破裂リスクの予測が特に難しいとされている中型サイズの脳動脈瘤に集中して,CFD解析の実施による数値流体力学解析情報の収集と,電子カルテデータからの医療情報並びに形態情報の収集を行った上で,破裂リスク予測器の構築を行った.臨床情報,形態情報,数値流体力学解析情報の3種類の情報を用いて学習した結果得られた破裂予測の感度,特異度はそれぞれ0.771, 0.815である.本研究では臨床情報,形態情報,数値流体力学解析情報の3種類の情報を用いた場合の予測器の最終的な感度,特異度の目標を0.85以上としており,この予測器の開発における進捗率は約80%程度であることから,概ね順調に進展しているといえる.本年度はこれまでの臨床現場において参考にされてきた医療情報や形態情報に加えてCFD解析に基づく数値流体力学解析情報に対する学習が破裂リスクを予測する上で重要であると示すことが出来たのは大きな成果であった.特に,本研究では将来的な破裂リスクを予測出来るようになることを目標としているため,学習対象となる脳動脈瘤のうち,破裂症例については,経過観察中に破裂した症例でなければならない.通常,脳動脈瘤は発見され次第,外科的治療により処置されてしまうことが多いため,データの収集は非常に困難である.本研究では解析対象となった計338症例のうち経過観察中に破裂した脳動脈瘤を計35症例収集することに成功しており,非常に意義のあるデータ収集となった.また,形態情報や数値流体力学解析情報を用いなくとも,医療情報と脳動脈瘤のサイズ等の一部形態情報のみから破裂リスクが予測可能な結果も示唆されており,これら情報から簡易的にリスク予測が行えれば臨床現場での利用におけるハードルが低くなることが予想される.
今年度までに構築した脳動脈瘤の破裂リスク予測器は3種類の機械学習モデル(Light GBM, XGBoost, SVM: Support Vector Machine)を用いてきた.一方,これら異なる種類の機械学習のモデルを組み合わせStacking Modelを構築することにより,予測性が高く,バランスのとれた予測アルゴリズムを構築できるようになる可能性がある.そこで今後の研究ではStacking Modelの構築により,破裂予測精度の向上を目指す.また,数値流体力学解析情報に対する学習を行う際には,脳動脈瘤部分のみならず,母血管における血流の状態も学習の対象としていた.しかしながら,脳動脈瘤の破裂リスクを予測する上では脳動脈瘤内部の流れによる影響が支配的であることが予想されるため,学習対象を脳動脈瘤内部において取得可能な数値流体力学解析情報に留めることを検討する.加えて,詳細な形態情報や数値流体力学解析情報を用いずに,医療情報と脳動脈瘤のサイズ等の一部形態情報のみから破裂リスクを予測可能な学習器の構築を行うとともに,学習対象をこれまでの中型サイズの脳動脈瘤から全てのサイズの脳動脈瘤へと拡大する.これにより,学習対象が大きく広がることで予測精度の向上が狙える.特に,医療情報と脳動脈瘤のサイズ等の一部形態情報のみから破裂リスクを予測できれば,脳動脈瘤初診時の簡易的なリスク判定機として活用できることが期待される.また,これまで日本国内の施設を中心に収集し,構築していた脳動脈瘤データベースの国際化を図る.米国Massachusetts General Hospital, オランダ Utrecht University Hospitalにおいて医療情報の収集を行い,学習対象に反映させることで,人種間の差異まで考慮可能な予測器を構築できるようになる可能性がある.
すべて 2020 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (16件) (うち国際学会 5件、 招待講演 1件) 備考 (2件)
1.EPiC Series in Computing: Proceedings of 35th International Conference on Computers and Their Applications
巻: 69 ページ: 180-186
10.29007/jjwt
International Journal for Numerical Methods in Biomedical Engineering
巻: Online ahead of print ページ: 0
10.1002/cnm.3335
https://www.rs.kagu.tus.ac.jp/yamamoto/indexj.html
http://medicalengineering.jp/