研究課題/領域番号 |
20J40038
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
大橋 祐美子 神戸大学, 理学研究科, 特別研究員(RPD)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 液-液相分離 / アミロイド / Sup35 / プリオンドメイン / 天然変性領域 |
研究実績の概要 |
細胞内液-液相分離によって形成される液滴は、細胞内の様々な反応の促進に貢献している。しかし、液滴形成で主体的に働く蛋白質の多くは、異常凝集を形成しやすいプリオンドメインと呼ばれる配列を持っており、疾患との関係が指摘されている。この研究では、酵母の翻訳終始因子のN末端天然変性領域Sup35NMを用い、そのプリオンドメインが、液-液相分離でどの様な役割を担っているのかを明らかにする事を目的としている。 1年目の研究で、Sup35NM液-液相分離の高い温度感受性にはプリオンドメインの局所構造領域に多く存在するチロシン残基が重要である事を発見し、そのチロシンを他のアミノ酸に置換することで温度感受性が低下する事が示された。2年目はこの結果をさらに掘り下げ、分子機構の解明を試みた。その結果、局所構造領域のチロシン残基のアミノ酸置換による温度感受性の低下には全く異なる二種類の経路が存在する事が明らかとなった。一つ目は、局所構造が壊れ、広がった構造をとる事でSup35Nドメイン単独での液-液相分離能を失い、Sup35Mドメイン主導の相分離が起きる事で温度感受性が低下するという経路であり、チロシン残基の相互作用で局所構造が作られている事、及び局所構造が液滴形成時の分子間相互作用を担っている事が分かった。2つ目の経路は、導入されたアミノ酸同士の強い相互作用によって局所構造が安定化され、さらに局所構造を介した分子間相互作用も強固になる事で液滴のゲル化が促進され、熱安定性が上昇する事で温度感受性が低下するという経路であった。 これらの結果から、適度に弱いチロシン残基同士の相互作用がSup35NMの局所構造を形成し、その構造が温度変化により変動する事で分子間相互作用の強度が変化し、液-液相分離の温度感受性が生まれるというモデルが考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は1年目の研究で発見した現象の分子機構を解明に取り組み、液-液相分離の温度感受性低下を引き起こす2種類の経路を確認することができた。またそこから天然型Sup35NMの液-液相分離の温度感受性モデルを立てる事ができ、現在これらの結果をまとめた論文を作成している。研究は順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
2年間の研究でSup35NMの液-液相分離についての理解が進み、同時に、様々な特徴を持つSup35NM変異体を手に入れる事ができた。しかしこれまでの実験は試験管内の夾雑物の無い条件での結果であるため、生体内での実際の挙動は分からない。そこでこの研究で用いたSup35NM及びその変異体を酵母細胞内で発現させ、その相分離、ゲル化、アミロイド化等の挙動を追いたいと考えている。生体内にはSup35NMと結合する蛋白質も存在するため、それらの挙動にも注目して行う。
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