飽食と高齢化が進む現代において、加齢による肥満の発症機構の解明は重要な課題である。加齢性肥満の発症の原因の一つとして代謝量の減少が考えられるが、加齢による代謝量の低下メカニズムは明らかにされていない。研究代表者のこれまでの研究から、加齢に伴い褐色脂肪の熱産生反応が減弱することがわかった。また、褐色脂肪における熱産生を制御する視床下部背内側部には4型メラノコルチン受容体(MC4R)が発現しており、メラノコルチンに対する感受性が加齢と共に弱まることを明らかにした。以上の結果から、褐色脂肪における熱産生を制御する神経回路が、加齢によって変容している可能性が示唆された。 次に、研究代表者らが独自に作製した抗MC4R特異的抗体を用いて免疫組織染色を行うと、視床下部背内側部の神経細胞の特定の細胞内構造にMC4Rが局在し、加齢に伴いMC4R陽性の細胞内構造が変容していた。 遺伝子改変動物を用いてMC4R遺伝子プロモーター下でCreを発現させ、視床下部背内側部のMC4R発現神経細胞選択的にMC4Rが局在する細胞内構造を減少させたところ、コントロール群と比較して代謝量が減少していた。また、体重と体脂肪率は増加し、肥満傾向となることがわかった。視床下部背内側部だけでなく、視床下部室傍核においてもMC4Rの発現は確認されており、主に摂食を制御することがわかっている。視床下部室傍核および背内側部の両方においてMC4R発現神経細胞選択的に特定の細胞内構造を減少させたところ、視床下部背内側部だけで減少させた時と比較して摂食量が増加し、さらに体重と体脂肪率が増加することが分かった。 今後はMC4R陽性細胞内構造の加齢による変容を人為的に抑制した際の、体重・体脂肪率・摂食量および代謝量の変化を観察する。また、これまでに作成したサンプルを用いて遺伝子解析を行い、加齢性肥満発症に関与する因子の同定を目指す。
|