研究実績の概要 |
哺乳類の性はY 染色体にある性決定遺伝子Sry により決定する。申請者は性決定期の細胞のトランスクリプトームデータを解析する中で、Sryの近傍に未知の転写産物(Srxと命名)が存在することを発見した。当初は、この未知の転写産物はノンコーディングRNAなどの転写調節に関与するものだと考えていたが、長鎖RNAシーケンスなどの最新の解析手法を用いることで、Srxはこれまで知られていなかったSryの“隠れエキソン”であり、Two exon type SRY(Sry-T) をコードすることが判明した。さらに、ゲノム編集マウス技術を駆使することで、Sry-Tを欠損するとオスからメスに性転換すること、Sry-Tを発現させたXX型個体はオスに性転換することを示した(同一の条件で既存のSryを発現させた場合にはXX型マウスのオス化は認められなかった)。これらの実験から、この“隠れエキソン”がコードするSRY-T が真の性決定因子であることを明らかにした(Miyawaki etal., Science 2020)。 Sryが発見されてから30年間、Sry は1つのエキソンで構成され、ただ一種類のSRYのみをコードすることを疑う研究者はいなかった。この常識に反して、申請者はSryには2つ目のエキソンがあり、SRY-Tが真の性決定因子であることを明らかにすることができた。本研究成果により、生物学の大きなテーマのひとつである性決定において、鍵となる重要な遺伝子Sryの全体像が解明された。今後は、Sry-Tが他の生物にも存在するのかどうかを調べる必要がある。
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