研究課題/領域番号 |
20J40157
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
長谷川 智子 京都大学, 大学院医学研究科, 特別研究員(RPD)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 分岐鎖アミノ酸 / 網膜色素変性 / 神経保護 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、分岐鎖アミノ酸による神経細胞の細胞死抑制メカニズムを解明し、網膜色素変性の変性進行を鋭敏に反映するバイオマーカーを解明することで、分岐鎖アミノ酸による網膜色素変性に対する疾患進行抑制薬を開発することである。 申請者らは採用前までに、分岐鎖アミノ酸が小胞体ストレスや電子伝達系阻害ストレス下の培養細胞で、細胞内ATP濃度低下を抑制し、細胞死を抑制すること、網膜変性モデルマウスにおいて視細胞の変性を抑制し、網膜機能の低下を抑制することを明らかにしている。また、1年目の令和2年度には、蛍光標識された2-デオキシ-D-グルコース(2-DG)をHeLa細胞へとりこませ、蛍光量を測定することで、分岐鎖アミノ酸投与により、HeLa細胞において細胞内へのグルコースの取り込みが増強されることを明らかにした。 2年目の令和3年度には、1年目に確立した系を用いて、Lonidamine、Heptelidic acid、Shikoninによる解糖系の阻害下、およびUK5099添加によるクエン酸回路阻害下での分岐鎖アミノ酸の効果を検討した。HeLa細胞において、分岐鎖アミノ酸投与により、解糖系の各段階の阻害下やクエン酸回路阻害下であっても、細胞内ATP濃度低下が抑制されることを明らかにした。また、次年度への準備として、分岐鎖アミノ酸による細胞内へのグルコースの取り込み促進の機序をさらに解明するため、培養細胞にgreen fluorescent protein蛍光を発現させた培養細胞を用いて、蛍光イメージングを行うための実験系を確立した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では2年目の本年までに、分岐鎖アミノ酸によって細胞内へのグルコースの取り込みが促進されることを明らかにした。また、分岐鎖アミノ酸が小胞体ストレスや電子伝達系阻害ストレス下のみならず、解糖系の各段階の阻害下やクエン酸回路阻害下であっても細胞内ATP濃度低下が抑制されることを明らかにした。さらに、網膜色素変性の前向き経過観察研究を推進し、静的量的視野検査や視力検査、光干渉断層計検査での各種パラメーターの比較を行い、光干渉断層計検査での黄斑部Ellipsoid zone長測定が、網膜色素変性の疾患進行をとらえやすい指標であることを明らかにした。また、申請者らが行っていた、網膜色素変性に対する分岐鎖アミノ酸の効果を検討するための医師主導治験(第Ⅱ相)は、令和2年度に予定通り終了し、現在解析中である。 これらの結果により、次年度も分岐鎖アミノ酸の細胞保護メカニズムの解明をさらに進めることができる環境が整ったため。
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今後の研究の推進方策 |
2年目までに得られた結果をもとに、分岐鎖アミノ酸によるグルコースの取り込み促進の機序をさらに解明するため、green fluorescent protein蛍光を発現させた培養細胞を用いて、蛍光イメージングを行う。 さらに、分岐鎖アミノ酸配合剤の網膜色素変性に対する医師主導治験(第Ⅱ相)の結果をもとに、第Ⅲ相試験の計画を立案するため、網膜色素変性での神経細胞変性の進行及び進行抑制効果を鋭敏に反映するバイオマーカーの開発を進める。2年目までに、静的量的視野検査や視力検査、光干渉断層計検査での各種パラメーターの比較を行い、光干渉断層計検査での黄斑部Ellipsoid zone長測定が、網膜色素変性の疾患進行をとらえやすい指標であることを明らかにした。本年度はさらに、網膜形態評価指標である黄斑部Ellipsoid zone長や眼底自発蛍光画像での黄斑部正常網膜の面積と、機能評価検査である視野検査での疾患進行速度を比較し、疾患進行の評価に形態評価指標を用いることの妥当性を明らかにする。
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