研究課題/領域番号 |
20J40175
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
福沢 愛 東京大学, 未来ビジョン研究センター, 特別研究員(RPD)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 認知的方略 / 社会参加 / well-being / 生きがい感 / 老前準備 |
研究実績の概要 |
2020年度には研究1と研究2の調査を行った。研究1では、先行研究の認知的方略尺度を考に20項目の社会人向け認知的方略尺度を作成し、20~59歳の747名を対象に調査を行った。因子構造は想定した通りのものとなり、信頼性係数も十分に高かった。作成尺度と同時に作成した変数との相関関係も想定した通りのパターンとなり、構成概念妥当性も確認されたと考えられる。 研究2では作成した成人向け認知的方略尺度を用い、40~79歳の800名を、DP者(Defensive Pessimist)、SO者(Strategic Optimist)、RP者(Realistic Pessimist)、UO者(Unrealistic Optimist)に分類した。老前準備の程度を比較したところ、RP者とUO者は他二群と比べ、老前準備に取り組む程度が有意に低かった。また、RP者では社会的ネットワークの豊富さが、UO者では老後の健康状態に対する心配の度合いが、老前準備と正の関連を持っていた。 2021年度に延期されたインタビュー調査では、研究フィールドにおける地域活動のコアメンバーに、地域活動に関わることになったきっかけや地域活動への思いを尋ねた。その結果、現在地域活動のリーダー的存在であるコアメンバーはSO者であり、地域活動に能動的に取り組む傾向が見られた。その他のコアメンバーにはLM者やRP者が多いことが分かった。更にすべてのコアメンバーは、認知的方略の分類に関わらず、生きがい感の3側面すべてが高い傾向も見られた。 2020年度の調査により、主に学業領域で着目されてきた認知的方略が老前準備にも結びつくことが示唆された。また2021年度のインタビュー調査により、どのような認知的方略を持つ者が地域活動のリーダーに適しているのかも示された。2022年度に予定される介入研究の土台の一つができたと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度に行った研究1と研究2の成果は第一に、社会人向けの認知的方略尺度を作成し、信頼性と妥当性が確認できたことである。第二に、これまでは主に学業領域において検討されてきた認知的方略を、老前準備などの他の領域に、ある程度応用できることが明らかになったことである。 2021年度に延期されたインタビュー調査における成果は、老前準備の一環である地域活動を、積極的に行う人々の傾向について詳細な検討を行うことで、2020年度の知見を2022年度の介入研究につなげることができたことである。当初は研究フィールドの住人を対象とした実験を予定していたが、たびたびの緊急事態宣言によってオンラインのイベントが増え、その分住人の生の声を聴く機会が増えたと考えられる。地域住人との交流の中で「若い人たちにももっと地域活動に参加してほしい」というニーズが多かったことにより、プレ実験を兼ねたインタビュー調査に軌道修正し、若い住人たちの生の声を聴くこととした。インタビューの結果、地域活動を行う人の中でもリーダー的存在である住人のパーソナリティの、ある程度のパターンを知ることができた。またコアメンバーの中ではRP者やLM者であっても、社会志向的側面や未来志向的側面の生きがい感が高い傾向が見られた。こうした知見は、今後の介入研究で、若い住人の地域活動を促進するためには、最初にリーダーに適したパーソナリティを持つ住人に中心人物となってもらい、そうした人物を中心に活動の幅を広げることが効果的であることを示唆するものであった。 2020年度には2回の学会発表、3本の日本語論文投稿(うち1本は2020年度に採択)、1本の英語論文投稿を行った。オンラインや誌上発表となった学会や研究会の参加も積極的に行った。研究知見、成果の発表状況など全体を通して、おおむね順調に研究活動ができたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は研究1、研究2に関する論文の投稿を行う。また、特に若い住人の、老前準備の一環としての地域活動を促進する介入研究を行う。まず2021年度に引き続き、対象をより若い住人や、現在積極的に地域活動をしていない住人に広げ、質的データと量的データを測定する。質的データに関しては詳細な質的分析を行い、得られた知見に関して論文執筆を行う。 また、研究フィールドのコアメンバーと連携を取りながら、地域活動に継続的に参加する人を増やすよう、介入を行う。2021年度の知見により、地域活動のリーダーになるのに適した認知的方略やパーソナリティがあることが示唆された。事前にパーソナリティを測定し、介入初期にはそうしたパーソナリティを持つ住人にリーダーとなって活動を進めてもらう働きかけが、地域の活動を活発にするためには効果的であると考えられる。事前のパーソナリティ測定を行い、研究フィールドである地域で6カ月程度の介入を行う。介入の前後に社会関係資本やwell-being、老前準備への意識を測定し、また随時フォーカスグループインタビューを行い質的データも測定する。 新型コロナウィルスの影響で十分な調査協力者を得られない可能性もあるため、業者に委託してのウェブ調査も行う予定である。またこれまでの知見を主に国内の学会に発表し、研究会へも積極的に参加する予定である。
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