私達はサツマイモ体内から窒素固定エンドファイトとしてBradyrhizobium sp. AT1を分離している。この菌の接種により、サツマイモ体内での窒素固定活性ならびに根の伸長促進を確認している。これまでにサツマイモの生育促進には植物ホルモンやいくつかの遺伝子の関与が示唆されているが、詳細は明らかにされていない。今年度はAT1株を接種したサツマイモ地下部のメタボローム解析を行い、AT1株の接種がサツマイモの生育に及ぼす原因を推定した。 無菌栽培したサツマイモ苗を土壌が充填されたポットに移植し、AT1株接種区と非接種区を設けた。接種30日後に地下部をサンプリングし、液体窒素で速やかに冷凍し、乳鉢と乳棒を用いて粉末にした。これらのサンプルについてCE-TOFMSを用いたメタボローム解析を行い、イオン性代謝産物を網羅的に測定した。さらに代謝産物の測定データを用いて、主成分分析および階層的クラスタリングによるヒートマップ解析を行った。 この結果、AT1株接種30日後の根において、非接種区と比較してアミノ酸やエネルギー代謝、ストレス応答に関連する代謝産物の変動が認められた。一方、AT1株接種区と非接種区では根の生育や形態にほとんど違いが認められなかった。 私達はこれまでに、サツマイモ地下部においてAT1株接種により発現変動がみられる遺伝子の網羅的解析を行っており、代謝やストレス応答に関連する多様な遺伝子の発現変動を確認している。これらの結果をあわせて、AT1株の接種により変動したサツマイモ内の代謝産物が、サツマイモの生育やストレス応答に関与している可能性を示唆した。
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