研究課題/領域番号 |
20J40217
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
林(大岡) 杏子 筑波大学, 医学医療系, 特別研究員(RPD)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 免疫受容体 / γδT / 乾癬 |
研究実績の概要 |
ヒトの乾癬では、TNF-αによって維持される樹状細胞が産生するIL-23によって、IL-17産生細胞が活性化しており、乾癬の治療薬として、炎症性サイトカインを標的とした抗TNF-α抗体、 抗IL-12/IL-23抗体、抗IL-17抗体などが用いられている。しかしながら、治療効果が低かったり、治療薬の副作用として感染症や炎症性腸疾患が誘発されるなどの問題があり、安全で有効な治療法の確立が望まれている。 CD96は、細胞内領域に抑制性シグナルと活性化シグナルの両者を持つユニークな免疫受容体である。これまでに、CD96欠損マウスの乾癬病態がWTマウスと比べて軽減される事を示した。 この事は、抗CD96抗体が乾癬に対して有効な治療薬となりうる可能性を示唆している。本研究の目的は、CD96の乾癬病態における役割の分子機構の解明と治療応用に向けた基盤開発行う事である。今年度は、以下の3点について研究を行った。 (i) 乾癬モデルマウスにおけるγδT細胞以外の細胞のCD96の関与の有無-CD96は様々なリンパ球系の細胞に発現しているが、γδT細胞上のCD96が乾癬様病態の増悪に影響している事を明らかにした。 (ii) マウスγδT細胞におけるCD96の活性化シグナル伝達経路の解明-γδT細胞がIL-17を産生するためには、TCRシグナルやIL-23やIL-1βなどのサイトカインによるシグナルの活性化が必要である。申請者が前年度に確立した、マウスの皮膚から単離したγδ T細胞の培養系を用いて、CD96がγδT細胞のどのシグナル経路を活性化し、IL-17産生を誘導しているかin vitroで明らかにした。 (iii) 抗CD96中和抗体を用いた乾癬モデルマウスに対する予防、治療効果の検討-マウスにCD96の中和抗体を投与する事でイミキモド誘発乾癬モデルマウスの病態を軽減できる事を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
理由 今年度は、以下の3点について研究を行った。 (i) 乾癬モデルマウスにおけるγδT細胞以外の細胞のCD96の関与の有無-γδT細胞上のCD96が乾癬病態の増悪に関与しているか否か明らかにするため、Rag1欠損マウスの背部にWTマウス、あるいはCD96欠損マウスの脾臓から単離したγδT細胞を移入し乾癬を誘導したところ、PBS 投与群と比較し、WTマウスから単離したγδT細胞を移入したマウスで乾癬様病態が増悪し、CD96欠損マウスから単離したγδT細胞を移入したマウスで乾癬病態が軽減した。この結果から、γδT細胞上のCD96が乾癬病態の増悪に関与している事を示した。 (ii) マウスγδT細胞におけるCD96の活性化シグナル伝達経路の解明-WTマウスの皮膚から単離したγδT細胞をin vitroでCD3抗体、CD96抗体、IL-23で刺激し、IL-17の産生量の解析を行った。CD96抗体刺激は、TCR刺激下で、IL-23 刺激によるIL-17産生量を促進した。また、この時、γδT細胞のERKのリン酸化の亢進、T細胞活性化マーカーの発現上昇が見られ、CD96がγδT細胞のTCRシグナ ルを活性化している事を示した。 (iii) 抗CD96中和抗体を用いた乾癬モデルマウスに対する予防、治療効果の検討-マウスにCD96の中和抗体を投与する事でイミキモド誘発乾癬モデルマウスの病態を軽減できる事を見出した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの結果から、抗CD96中和抗体は、γδT細胞膜上のCD96に結合し、CD96のシグナル伝達経路を阻害する事で乾癬病態を抑制する新しい治療薬となりうる 可能性がある。今後は、以下3つの点について研究を推進する。 (i) 抗CD96中和抗体を用いた乾癬モデルマウスに対する予防、治療効果の検討-イミキモド誘発乾癬モデルマウスを用いて、抗CD96中和抗体と既存薬であるIL-17抗体、TNF抗体との病態抑制効果の比較を行う。また、既存薬とCD96抗体を同時投与する事で、相加効果が見られるか検討する。 (ii) ヒトγδT細胞におけるCD96の機能の解明 申請者は、健常人から採取した末梢血単核細胞 (PBMC) 中のγδT細胞がCD96を発現し、マウスγδT細胞と同様に、TCR刺激下でCD96抗体で刺激した際に、IL-17 産生が増加する事を示している。今後は、筑波大学医学医療系皮膚科の協力を得て、乾癬患者のPBMCを用いた解析を行う。健常人と比較して、乾癬患者のγδT 細胞上のCD96の発現が高い、IL-23刺激によるγδT細胞からのIL-17の産生量が、TCR刺激下でCD96抗体で刺激した際に、健常人のγδT細胞と比べて感受性が高 い可能性を考え、解析する。ヒトCD96が、マウスCD96と同様、γδT細胞を活性化する事で病態の悪化に寄与している事を示せば、CD96が乾癬の新たな治療の標 的となりうる事を強く示唆できる。 (iii) ヒト抗CD96抗体の作成-現存するヒト抗CD96中和抗体の中和能は高くないため、中和能の高い抗体の作成を試みる。
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