研究実績の概要 |
本研究は所属研究室で発見された新規リゾリン脂質であるリゾホスファチジルイノシトール3,4,5-三リン酸(LysoPIP3)の本態解明を目的としている。申請者は令和2年度までにLysoPIP3の生成酵素を数種類同定し、そのうちの1種類の生成酵素について解析を進めていた。令和3年度はそれに加えてもう1種類の生成酵素について解析を進めた。 スクリーニングでは各種生成酵素候補を過剰発現させたHEK293T細胞株を用いて、LysoPIP3量が発現させた時にLysoPIP3が増える細胞株を探索した。このスクリーニングで申請者が新たに同定したLysoPIP3生成酵素のうちの1つについてin vitroでさらに解析を行った。その結果、本酵素はin vitroでもLysoPIP3を生成することが確認された。また、本酵素はPIP3以外の基質にも作用し、他の新規リゾリン脂質も生成することが明らかとなった。これらの結果から、本酵素はLysoPIP3生成酵素であることを明らかにした。現在、本酵素の発現量が高いがん細胞株を見出し、ノックアウト細胞株を作製しているところである。 また、LysoPIP3をより効率よく検出する測定系を構築した。これまでBligh & Dyer法を用いて脂質抽出を行い、LC-MS/MSにて検出していた。抽出条件の検討を行い、組織や細胞株からLysoPIP3を高効率に抽出する新たな方法を開発した。今後、この検出系を用いてマウスやヒトのがん組織内におけるLysoPIP3量の変化を解析する予定である。
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