研究課題/領域番号 |
20J40231
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
渡辺 麻衣 名古屋大学, 生命農学研究科, 特別研究員(RPD)
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研究期間 (年度) |
2020-10-12 – 2024-03-31
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キーワード | 光合成 / 光化学系 / アンテナ / 環境応答 |
研究実績の概要 |
窒素欠乏条件下ではCpcLのタンパク質量の増加と、CpcG4のタンパク質量の減少が見られ、PBS-CpcL-PSI超複合体が増加する。また、RNA-seq解析において窒素欠乏条件下でcpcLの発現が上昇することが報告されている。そこで、窒素欠乏時におけるcpcLとcpcG4の転写量をノザンブロッティングにより調べた。その結果、窒素欠乏時におけるcpcLの発現レベルの減少はcpcG4に比べて抑えられていることがわかった。これにより、窒素欠乏時のCpcL/CpcG4のタンパク質量比が増加すると考えられる。cpcL、cpcG4遺伝子はゲノム上でcpcオペロンの一部として存在している。そのため、cpcL、cpcG4の転写ををそれぞれ個別に制御することは容易ではない。ノザンブロッティングの結果とRNA-seq解析の結果から、cpcオペロンには複数のプロモーターが存在することがわかった。その多くは窒素欠乏時に活性が低下する一方、cpcLのプロモーターのみ窒素欠乏時にも転写が活性化されていた。cpcLの隣の遺伝子はcpcG4であり、cpcLプロモーターによる転写によりcpcL-cpcG4転写産物が存在した。ノザンブロッティングの結果、cpcL 単独の転写産物は窒素欠乏時にも減少しないが、cpcL-cpcG4 転写産物は窒素欠乏により減少した。これは、cpcG4の転写を特異的に抑制する機構の存在を示唆する。RNA-seq解析の結果を精査することで、cpcG4がアンチセンスRNA(ascpcG4)によって制御を受けている可能性を見出し、ノザンブロッティングによりascpcG4の転写が窒素欠乏時のみで起きていることを示した。 窒素欠乏時のcpcL、ascpcG4の転写が窒素固定細胞であるヘテロシスト特異的に起きているのかを検証するため、蛍光タンパク質によるレポーターアッセイを準備している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨今のパンデミックの影響によりホームオフィスが増えたため、予定していた実験の一部はまだ完了していないが、論文の執筆を大きく進めることができた。当初の予定にはなかったが、新しくいくつかの共同研究を始めることができ、新たな視点から研究を深めることができている。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画にはなかったが、cpcLの制御機構やCpcL-フィコビリソームの多様性についての共同研究を開始した。この共同研究により、より広く、より深く、シアノバクテリアのアンテナによる光合成電子伝達の制御について理解できると考えている。また、光化学系I複合体の機能を利用した、化学物質の合成に関わる共同研究も開始した。合成を行う酵素は酸素感受性が高いため、光化学系I複合体のみが機能し、酸素発生を行う光化学系IIが機能していない、ヘテロシスト細胞での発現を試みている。光化学系Iの活性を高めたり、外来遺伝子と相互作用させるために、これまでの研究で得られた光化学系I特異的アンテナの特性を利用することができると考えている。今後は、共同研究を進めつつ、当初の研究計画である窒素欠乏によるcpcLの制御について論文にまとめる。また、アンテナによる光合成の制御について検証するための、生理学実験を開始する。
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