研究課題/領域番号 |
20J40237
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
越智 杏奈 立命館大学, 総合科学技術研究機構, 特別研究員(RPD)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | セレン粒子 / 亜セレン酸 / 外膜小胞 / 元素状セレン / 大腸菌 |
研究実績の概要 |
令和2年度は「微生物による細胞外セレン粒子 (SeNPs)排出メカニズムの解明」を目的とし、Escherichia coliをモデル生物として、SeNPs生成と外膜小胞 (OMV)との関係性を調べた。
E. coliは、溶液中の亜セレン酸を還元し、赤色のSeNPsを細胞外に生成する。E. coliにおいて、亜セレン酸は細胞質で還元されると考えられているため、SeNPsは細胞内で形成された後、細胞外へ放出されると考えられる。不溶性のSeNPsを細胞外に放出する方法として、全てのグラム陰性菌に見られるOMVが考えられるが、SeNPsとOMVとの関係性は全く報告されていない。 E. coli WTを亜セレン酸含有培地で培養し、細胞外に放出されたSeNPsを培地上清から遠心分離によって精製した。放出されたSeNPsは、OMVと同程度の大きさ(約100 nm)の球形であり、また外膜小胞の主要構成成分であるOmpCおよびOmpAを含む多くのタンパク質が付着していた。このことより、SeNPsの放出にOMVが関係していることが示唆された。 また、OMVを過剰に生産することが報告されているE. coli 遺伝子欠損株を亜セレン酸含有培地で培養し、亜セレン酸還元量や生成したSeNPsの状態をWTと比較した。その結果、OMVが過剰に生産される株において、細胞当たりの亜セレン酸還元量がWTの1.6倍ほど増加しており、SeNPsに由来する培養液の呈色も濃くなっていた。このことより、亜セレン酸還元およびSeNPs生成へのOMVの関与が考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の計画通り、「E. coliにおける細胞外SeNPs生成にOMVが関係している」ことを示唆する結果が得られた。これまでの成果は、令和2年度に2つの国内学会で報告した。現在行っている最新の結果も、令和3年度に開催される国際学会Goldschmidt 2021および生化学会近畿支部会にて発表予定である。
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今後の研究の推進方策 |
OMV過剰生産株のうち、外膜構造の完全性に関わる遺伝子の欠損株において、SeNPsを細胞外に放出できなくなるものが幾つか見られた。これらの株のSeNPs生成の様子を位相差顕微鏡で観察したところ、SeNPsが細胞内または細胞表面に蓄積している様な様子が観察された。このことから、細胞外へのSeNPs放出には、外膜構造の完全性が必要であることが考えられた。 今後は、WTおよび上述の遺伝子破壊株のSeNPs生成の様子や、SeNPsの細胞内外での局在を透過型電子顕微鏡(TEM)および蛍光顕微鏡を用いて観察する。また、欠損した遺伝子の補完実験を行い、欠損がどの様に影響しているのか調べる。E. coliにおいてSeNPsが細胞内のどの場所でどの様に生成され、どの様にして細胞外に放出されるのか、これまでの結果と合わせて考察する。
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