自閉スペクトラム症者(Autism Spectrum Disorder: ASD)と定型発達者における脳活動を比較し,水平方向の音源定位にかかわる処理機能の違いを定量的に検証することを目的とする. これまで以下の2点が明らかになっている. 1)ASD者と定型発達者において,音の両耳間レベル差と両耳間時間差に対する感度を心理物理学的に測定して比較した.その結果,ASD者は定型発達者に比べて両耳間レベル差・時間差に対して低い感度を示した. 2)両耳間位相差刺激に対する脳幹/皮質誘発電位と知覚感度を測定した結果,脳幹反応と皮質反応,知覚感度との間に有意な相関関係が認められた. 今年度は,1)の成果をScientific Reportsへ投稿し,採択された.また,今年度は,これまで明らかになった2)の測定手法をASD者に適用して,両耳間位相差刺激に対する脳幹,皮質での処理様相を明らかにする予定であった.しかし,2)で行った実験において得られた脳幹反応が,①単純に左右の耳に呈示されたそれぞれの刺激に対する独立した神経活動から発生した信号の電気的な足し合わせを反映しているのか,②両耳間位相差を比較するメカニズムにより生じる神経活動を反映してるのか,これまでの測定からは明らかになっていなかった.そこで定型発達者を対象として,片耳刺激条件を含めた追加実験を行い,得られる脳幹反応が①と②のどちらなのかを検証した.その結果,両耳間位相差刺激によって得られる脳幹反応は,②両耳間位相差を比較するメカニズムにより生じる神経活動を反映してることが示唆された.この成果を,日本音響学会2022年秋季研究発表会で報告した.この結果から,この手法をASD者に適用することで,ASD者において脳幹レベルにおける両耳間位相差を比較するメカニズムにおいて異常が生じているのかの検討が行えることが明らかになった.
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