研究課題/領域番号 |
20J40261
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
小山(中島) 明 京都大学, iPS細胞研究所, 特別研究員(RPD)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 腸上皮 / 加齢 / 個体老化 / 腸内分泌細胞 / 代謝 / single cell RNA-seq / 腸オルガノイド |
研究実績の概要 |
腸上皮細胞の一種である腸内分泌細胞は消化、食欲、全身の代謝の制御に関わる。腸内分泌細胞は、腸管ホルモンを介して、加齢に伴う様々な組織・臓器の機能低下や、代謝異常に影響を与える可能性があるが、未解明である。当該研究者はこれまでに、加齢に伴う腸内分泌細胞系譜への分化能上昇を見出していた。本研究は、シングルセルRNA-seq解析、腸オルガノイド培養システム、遺伝子改変マウスなどを用いて、腸内分泌細胞分化の加齢変化が個体老化に及ぼす影響を明らかにすることを目指すものである。 本年度は、腸上皮組織の加齢変化を調べる目的で、若年マウス(2-3か月齢)と加齢マウス(22-26か月齢)由来腸上皮細胞のsingle cell RNA-seq解析を行った。Single cell RNA-seq解析の一番の目的は、腸内分泌細胞サブタイプの同定であったが、腸内分泌細胞はシングルセル化処理に弱く、質の高いデータを得ることができなかった。その他の腸上皮細胞については、加齢に伴い発現変動する遺伝子群の同定に成功した。上流解析から、腸上皮の老化を制御するシグナル伝達経路の候補を複数得た。若年マウス由来の腸オルガノイドにおいて、薬剤やサイトカイン添加により、候補シグナル伝達経路の活性を操作し、腸内分泌細胞増加を制御するシグナル伝達経路Xを同定した。また、このシグナル伝達経路Xについて、腸上皮組織における活性が加齢に伴い変化することを見出した。 本年度は、免疫染色により、二つの腸内分泌細胞サブタイプについて、腸部位特異的な加齢変化を見出した。加齢変化が観察された腸内分泌細胞サブタイプは、食欲や糖代謝制御に関与することから、腸内分泌細胞の加齢変化が個体老化に影響を与える可能性が示唆された。今後、残り6種類の腸内分泌細胞サブタイプについても、加齢変化を解析する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、腸上皮細胞のsingle cell RNA-seq解析を行い、加齢に伴う腸上皮細胞の細胞構成変化や遺伝子発現変化を検出することができた。当初の目的であった、腸内分泌細胞サブタイプの解析はできなかったが、その他の細胞種における解析結果をもとに、加齢に伴う腸内分泌細胞増加を制御するシグナル伝達経路を同定することができた。また、single cell RNA-seq解析において、当初は着目していなかった細胞種において興味深い加齢変化を見出し、腸上皮の老化と個体老化との関連性を示唆するデータを得た。各腸内分泌細胞サブタイプの加齢変化についても徐々に研究成果が得られており、研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
加齢変化が同定できていない残りの6種類の腸内分泌細胞サブタイプについて、解析を完了する。これまでに、Single cell RNA-seqと腸オルガノイド培養系を用いた解析から、腸上皮組織の加齢変化には複数のシグナル伝達経路が関与することを見出した。そこで、腸オルガノイド培養系において、複数のシグナル伝達経路の活性を同時に操作し、腸内分泌細胞サブタイプに与える影響を調べる。また、マウスへの薬剤や中和抗体を投与により、標的のシグナル伝達経路の活性を制御し、腸内分泌細胞サブタイプ分化や糖代謝に与える影響を解析する。Single cell RNA-seq解析により、腸内分泌細胞以外の細胞種の加齢変化が、個体老化に影響を及ぼす可能性が示唆されたため、その分子機構についても同時に解析を進め、腸上皮組織の加齢変化が個体老化に及ぼす影響を明らかにしたいと考えている。
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