研究課題/領域番号 |
20J40270
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研究機関 | 日本医科大学 |
研究代表者 |
美辺 詩織 日本医科大学, 医学研究科, 特別研究員(RPD)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 肥満 / 男性不妊症 / 月経異常 / 視床下部 / キスペプチン / ゴナドトロピン / 神経内分泌学 |
研究実績の概要 |
肥満関連疾患のひとつに不妊症があり、BMIが増加すると妊娠率は低下、排卵障害は増加する。過栄養による生殖機能低下は種間で保存された現象であるが、その詳細な発症機序は不明である。本研究では、肥満が哺乳類の生殖中枢であるキスペプチンニューロンに及ぼす影響に着目し、肥満を基盤とした生殖機能低下を惹起する視床下部の病態と発症機序について神経内分泌メカニズムの全容解明を目的とする。本研究は、欧米先進国や東南アジア新興国における肥満を基盤とした不妊症や、日本における代謝異常に伴った排卵障害の発症メカニズムを説明するものである。初年度では、以下の2つの実験を行なった。 (i) 4ヶ月間の高脂肪食給餌により肥満を誘導した雌雄ラットを用いて、肥満が生殖機能に及ぼす影響を評価した。雄ラットでは肥満により弓状核のキスペプチン遺伝子(Kiss1)発現が抑制された。一方、雌ラットでは肥満による血中エストロゲン濃度低下、子宮重量の低下や性周期異常が観察されたものの、ゴナドトロピン(LH)及びKiss1発現は対象群と差はなかった。このことから、雌では肥満によりゴナドトロピン非依存的に卵巣の性ステロイド合成が阻害されると考えられる。さらに、雌と比較して雄のKiss1発現低下が早期に起こることから、食事性肥満に対するキスペプチンニューロンの感受性には雌雄差があることが示唆された。 (ii) 肥満によるKiss1発現抑制メカニズムを明らかにするため、遺伝性肥満ラットを用いてキスペプチンニューロンが局在する視床下部における神経炎症を、脳内の免疫担当細胞であるグリア細胞(ミクログリア)の浸潤の程度を指標にミクログリアマーカーIbaIの免疫組織化学を用いて検討した。10週齢の動物で解析した結果、対照群に比べて肥満ラットではキスペプチン免疫陽性細胞数は減少したものの、ミクログリアマーカーの染色性は両群で差はなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では、肥満を基盤とした不妊の神経内分泌メカニズムの解明を目的としているが、不妊を呈する食餌性肥満の動物モデル確立が当初の予定より遅れている。当初の計画の通り、食餌性肥満モデルを用いて雌ラットの生殖機能を評価したところ、予想通り対照群の動物と比べて肥満動物では性周期異常を呈する動物が多くなった。一方で、妊孕性低下のメカニズムに関しては、予想とは違い生殖中枢であるキスペプチンニューロンを介さない卵巣局所の性ステロイドホルモン分泌異常である可能性が高かった。初年度では上述の結果を鑑み、使用する動物を食餌性肥満モデルラットから中枢性不妊モデルとして既に確立されている遺伝性肥満Zuckerモデルへと計画を変更した。
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今後の研究の推進方策 |
使用する動物を当初の研究計画の食餌性肥満ラットから、中枢性不妊モデルとして既に確立されている遺伝性肥満Zuckerラットに変更し、研究計画を遂行する。初年度では、10週齢のZuckerラットでは血中エストロゲン濃度は対照群と差がなく、性周期がほぼ正常であることがわかった。そのため今後は、より肥満病態が進行していると考えられる15週齢のZuckerラットを用いて以下の実験を行う。(i)キスペプチンニューロンと脳内免疫担当細胞であるミクログリアとの相互作用を光学顕微鏡レベルで免疫組織化学により明らかにする。(ii)同モデルラットのキスペプチンニューロンを透過型電子顕微鏡で観察し、分泌顆粒の蓄積、分泌顆粒のリソソームへの輸送、オートファゴソーム形成といったペプチド分泌抑制に関連したオルガネラの微細構造変化を形態学的に解析する。これにより、肥満がキスペプチンニューロンのオルガネラや周辺微小環境に及ぼす変化を検討し、キスペプチンニューロンの肥満病態の詳細を細胞レベルで明らかにする。以上の実験で得られた研究成果について国内学会および国際学会で発表するとともに、国際誌への投稿準備を進める。
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