肥満関連疾患のひとつに不妊症があり、BMIが増加すると妊娠率は低下、排卵障害は増加する。過栄養による生殖機能低下は種間で保存された現象であるが、その 詳細な発症機序は不明である。本研究では、肥満が哺乳類の生殖中枢であるキスペプチンニューロンに及ぼす影響に着目し、肥満を基盤とした生殖機能低下を惹起する視床下部の病態と発症機序について神経内分泌メカニズムの全容解明を目的とする。本研究は、欧米先進国や東南アジア新興国における肥満を基盤とした不妊症や、日本における代謝異常に伴った排卵障害の発症メカニズムを説明するものである。実験では、4ヶ月間の高脂肪食給餌により肥満を誘導した雌雄ラットを用いて、肥満が生殖機能に及ぼす影響を評価した。雄ラットでは肥満により弓状核のキスペプチン 遺伝子(Kiss1)発現が抑制された。一方、雌ラットでは肥満による血中エストロゲン濃度低下、子宮重量の低下や性周期異常が観察されたものの、ゴナドトロピン(LH)及びKiss1発現は対象群と差はなかった。このことから、雌では肥満によりゴナドトロピン非依存的に卵巣の性ステロイド合成が阻害されると考えられる。さらに、雌と比較して雄のKiss1発現低下が早期に起こることから、食事性肥満に対するキスペプチンニューロンの感受性には雌雄差があることが示唆された。これらの研究成果をまとめた学術論文はPeptide誌に受理され、2021年8月号に掲載された。なお、採用から1年3ヶ月で所属異動により特別研究員は中途辞退した。
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