本研究は、ホヤ胚のもつ特徴を利用し、受精卵から胚葉形成を経て発生運命決定に至るまでの遺伝子発現調節システムの全体像を、単一細胞レベルの解像度で明らかにすることを目標に行われている。 ホヤ胚では32細胞期に個々の細胞がどの胚葉に分化するかが大まかに特殊化される。この仕組みを理解する目的で、我々は32 細胞期から胚性の発現を開始する13個の調節遺伝子に関して、上流調節因子がどのように調節しているかを論理式(調節関数)であらわすことに成功した。 13個の調節遺伝子のうち、Nodalの発現調節に関しては、得られた調節関数は必要条件を示すものの、十分条件を示していないと考えられた。そこで、Nodalの発現に必要な新たな因子を得るためのスクリーニング実験を行い、その結果、転写補因子であるFog (Friend Of Gata)がNodalの発現に関与していることを示す実験結果を得た。今回更新されたNodalの調節関数を用いて再現実験を行ったところ、予測どおりの割球でNodalを発現させることができた。 Gata.aはNodalだけではなく、32細胞期から発現を開始する他の調節遺伝子であるOtx、Zic-r.bの発現にも必要であることが分かっている。しかし、Fogの機能阻害実験を行っても、OtxとZic-r.bの発現には変化がみられなかった。つまりOtx、Zic-r.bの発現にFogは必須ではないといえる。Gata.aを同じように必要とする遺伝子でも、Fogに依存する遺伝子と依存しない遺伝子が存在する理由を調べるために、Gata.aを必要とする調節遺伝子の上流配列を比較し、上流解析実験を行ったところ、Fog依存・非依存は上流の調節領域に起因することが分かった。
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