研究課題/領域番号 |
20K00001
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
宮原 克典 北海道大学, 人間知・脳・AI研究教育センター, 特任講師 (00772047)
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研究分担者 |
新川 拓哉 神戸大学, 人文学研究科, 講師 (20769658)
吉田 正俊 北海道大学, 人間知・脳・AI研究教育センター, 特任准教授 (30370133)
濱田 太陽 沖縄科学技術大学院大学, 神経計算ユニット, 客員研究員 (40842258)
石原 悠子 立命館大学, グローバル教養学部, 助教 (40846995)
早川 正祐 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 特任准教授 (60587765)
西田 知史 国立研究開発法人情報通信研究機構, 脳情報通信融合研究センター脳情報通信融合研究室, 主任研究員 (90751933)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 習慣 / わざ / エナクティヴィズム / 現象学 / 生態心理学 / 共感 / 受容性 |
研究実績の概要 |
本研究は,現象学・プラグマティズム・日本哲学の思想と身体性認知の議論を融合して,認知や行為の習慣的基盤をとらえるための最適な理論的枠組み(「習慣」を中核にすえた新たな心のモデル)を構築し,この理論的枠組みが心の諸科学(脳や人工知能の理論)に対してもつ帰結を考察することを目的とする。具体的な研究課題は①「新たな習慣概念の確立」,②「習慣を中核にすえた新たな心のモデルの確立」,③「心の科学に対する意義の考察」という3カテゴリーに分類される。2020年度の研究では①②の課題で一定の成果があがった。 習慣にかんしては二つのスタンダードな立場がある。一つ目の「機械論」は,習慣を目的指向性を欠いた機械的なプロセスとして定義する。二つ目の「主知主義」は,習慣を行為の手続きにかんする自動化した信念として捉える。これらの立場が行為における習慣の役割をどれほど適切に捉えられているかを検討し,その問題点を明らかにした。また,現象学,プラグマティズム,生態心理学の観点を取り入れながら,習慣と行為の関連をより適切な仕方で捉えなおす可能性を検討した。その成果は3本の国際共著論文において発表した。また関連するものとして,現象学的哲学者H・ドレイファスと世阿弥の行為論を比較する研究もおこなった。 「共感と習慣」にかんする研究を進めた。現代哲学や心理学では「共感=心的シミュレーション(相手の心の状態を想像する作用)」として捉えるのが一般的である。しかし,これが共感の一部のケースにしか当てはまらない限定的な理論であることを示す議論を構築した。さらに,共感におけるインタラクションの役割の考察を通じて,共感を「受容性(receptivity)」を基盤した現象として捉え直す可能性を検討した。その成果をまとめた共著論文を国際誌に投稿し,現在査読を受けている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現象学,プラグマティズム,生態心理学の観点から習慣の概念を論じた研究を精力的に進め,国際共著論文を3本発表することができた。「共感と習慣」にかんする研究にも,苦労しながら粘り強く取り組み,年度内に論文を投稿するところまで漕ぎ着けることができた。「痛みと習慣」「内観と習慣」に関連する研究も順調に進展し,来年度には成果が出ることが期待される。一方で,コロナ禍によって対面のディスカッションをほとんど行うことができず,予定していた共同研究の一部は期待していたほどの進展がなかった。
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今後の研究の推進方策 |
まず,コロナ禍の影響もあってうまく連携のとれなかった共同研究者との連携体制を整備する。以下,特に重点的に取り組みたい課題をあげる。(1)現代の習慣論に日本哲学の観点からアプローチする道筋を模索する。(2)現代の心理学や神経科学における習慣の研究の現状を学び,よりきめこまやかな概念的整理をおこなう。(3)本研究で模索している理論的枠組みが,現代哲学における習慣をめぐる論争にたいしてもつ帰結を多角的に考察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍によって,ほとんどの対面の打ち合わせを翌年度に延期したため,旅費が大幅に余ることになった。繰越分の助成金は,もともと今年度に実施予定であった打ち合わせを実施するために使用する計画である。
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