研究課題/領域番号 |
20K00016
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
柴崎 文一 明治大学, 政治経済学部, 専任教授 (90260124)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 行為の理由 / ウィリアムズ / 内在主義 / マクダウェル / 規範 / 外在主義 |
研究実績の概要 |
当初の計画通り、本年度は「行為の理由」に関するB. ウィリアムズの内在主義的解釈に関する検討を行った。ウィリアムズは、合理的な行為には必ず理由があるとし、その関係を次のように定式化している:「Aの主観的動機群(S)からAがφすることに至る健全な熟慮のルートがある場合にのみ、Aにはφする理由がある。」 このように、合理的な行為の理由には、必ず行為者の「主観的な動機」が含まれるとする説を、ウィリアムズは、行為の理由に関する「内的解釈」と呼び、後に「内在主義」とも呼んでいる。そして、内的解釈に基づく行為の理由は、「内的理由」と呼ばれる。これに対して、「適切な動機」がなくても、行為の理由は説明され得るとする立場は、「外的解釈」と呼ばれ、「外在主義」とも呼ばれる。ウィリアムズは、内的解釈こそが、合理的な行為の理由に関する解釈として妥当なものであり、外的解釈は「はったりと脅し以上のものではない」として、外在主義を完全否定する。 このようなウィリアムズの内在主義に対して、J. H. マクダウェルやJ. E. ハンプトンらは、「健全な熟慮」という論点に着目した批判を提起する。健全な熟慮は、行為者のおかれた状況及び自己自身についての正しい信念と、行為者が持つ動機とを構成契機とする合理的な論証の過程に他ならない。ただしウィリアムズの議論では、信念の「正しさ」と論証の「合理性」を測る基準が明確には示されていない。さらに、このような熟慮の要請根拠も示されていない。マクダウェルらによれば、これらの基準や根拠は、「合理性の規範」に基づくとされる。また彼らによれば、こうした規範の源泉を行為者の「内部」に求めることは不合理であり、規範の源泉は行為者の「外部」にあるとする以外には考えられない、とされるのである。 本年度の研究では、以上のようなウィリアムズの内在主義と、マクダウェルらによる批判の検討を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
特に研究の妨げとなる事由がないため、研究はおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画通り2021年度は、『理由と人格』(以下、RPとする)を中心とする前期D. パーフィットの倫理学説を取り上げ、ウィリアムズとは異なった視点からの「道徳的行為の理由」に関する内在主義的理論の検討を行う。具体的には、次のような二つの論点に関する考察を行う。 第1に、パーフィットの〈人格=関係R〉論と倫理学説の関係を考察する。パーフィットはRPにおいて、独自の〈人格=関係R〉論を提唱し、ウィリアムズの内在主義を発展させた「批判的現在目的説」を提起している。そして「我々一人ひとりには、道徳性を気遣うことと、他者が必要としていることを気遣うことの両方が、合理的に要求されている」と主張する。本年度の研究では、こうした「要求の主体(主語)」は何であると考えられているのか、という問題に関する検討を通して、彼の〈人格=関係R〉論と倫理学説の関係を考察したい。 第2に、RPでは、「統一理論」や「理論X」と呼ばれる倫理学理論の仮説が提起されるが、それらの理論が完成に至らなかった理由を検討する。RPでは〈人格=関係R〉論の観点から「常識道徳」を改訂し、そこから得られる「理想的動機理論」と「実践的動機理論」を帰結主義に導入した「統一理論」の構想が示されている。またこれに加えて、世代間倫理に関する諸問題を解決するための「理論X」も要請されるが、これらの理論はRPにおいて完成には至っていない。本年度の研究では、〈人格=関係R〉論を基盤として提唱される彼の行為帰結主義の観点から、これらの理論を統一的に解釈することを目指すと共に、これらの理論が未完成となった理由を検討したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルスによる出張規制が行われたため、旅費が使用できなかった。
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