本研究では、「行為の理由」に関するバーナード・ウィリアムズと前期デレク・パーフィットによる内在主義/主観主義的理論、及び後期パーフィットによる客観主義的理論の考察を通し、「道徳的行為と、その理由の本質」に関する探究を行い、2本の論文を執筆した。 「道徳的規範性:R. M. ヘアーの選好功利主義とB. ウィリアムズの内在主義」(『明治大学人文科学研究所紀要』第89巻,2022)では、リチャード M. ヘアー倫理学の基本的な論点と問題点を再確認するとともに、ウィリアムズによる「行為の理由」をめぐる議論を検証することによって、ヘアー以降の現代倫理学における根本課題と、その解決に向けた方向性を探った。ヘアーやウィリアムズは、「行為の理由」を非形而上学的・内在主義の観点から解釈しようとする立場を採っている。しかし、ジョン H. マクダウェルやジェーン E. ハンプトンらも指摘するように、このような立場からは「正しさ」や「合理性」の明確な基盤を示し得ないという結論に達した。 次に「D. パーフィットの倫理学的議論に関する批判的考察:統一理論・三重理論・対象主義」(『明治大学人文科学研究所紀要』第91巻,原稿提出済)では、前期パーフィットの主著『理由と人格』における倫理学的議論に関する検討から始め、後年の『重要なことについて』において提起される「三重理論」と「対象主義/外在主義」に関する考察を通して、パーフィット倫理学の全体像を描出するともに、その特質に関する批判的検証を行った。その結果、後期パーフィットの「対象主義/外在主義」の立場からは、「実質的道徳性」の源泉に関する客観的認識根拠が示し得ないという結論に達すると共に、「実質的道徳性」の源泉に関する理論としては、トマス M. スキャンロンの契約説が、極めて有効な視点を提示しているという考察結果を得た。
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