研究課題/領域番号 |
20K00017
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
千葉 清史 早稲田大学, 社会科学総合学術院, 教授 (60646090)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | カント / 形而上学 / 認識論 / 超越論的観念論 / 実在論 / 反応依存性 |
研究実績の概要 |
2021年度は、Lucy AllaisとTobias Rosefeldtの解釈方針の検討を進めるとともに、「反応依存性」概念そのものについての現在の研究状況の把握に努めた。 Allaisの解釈はカントの「超越論的観念論」により強健(robust)な実在論を帰することになるが、とりわけ『純粋理性批判』の「純粋理性のアンチノミー」の解釈に際して重大な困難を持つ、という結論に達した。また、第一版「第四パラロギスムス」とも非常に相性が悪い。ただし、おそらくAllaisはこの点を自らの解釈の欠点とはみなさないだろう。彼女の解釈は、カント理論哲学全体とは斉合しないとしても、「超越論的分析論」までの箇所に対しては上首尾な理解を与えることは事実であり、本研究が目指す「カント的実在論」の有力な候補となる、というのが目下の結論である。 それに対して、Rosefeldtの解釈が「超越論的観念論」に帰する立場は、「実在論」と呼ぶには弱すぎる立場となってしまうとの暫定的結論が得られた。それはおそらく、彼が明示的に拒否する「現象主義」と大差ない立場になってしまうと思われる。Rosefeldtがこのことに気づいていないというのは考えにくいので、彼の解釈立場はさらに検討が必要であると思われる。 「反応依存性」概念そのものの研究に関しては、特に今日の反応依存性理論の代表的な二種であるJohnston型とPettit型の相違を明らかにすることに努めた。このテーマについての研究に関してはまだ端緒に着いたばかりであり、本格的な研究は2022年度に引き継がれることとなる。 また、本研究課題に関して、国内研究者を招聘して公開研究会を行なう予定であったが、新型コロナウィルス対策の継続により、実現できなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2021年度も引き続き、新型コロナウィルス感染拡大のあおりを受け、教務・学務で忙殺された結果、本申請研究の進捗は残念ながら捗々しくなかった。 具体的には、まず、Lucy AllaisとTobias Rosefeldtの解釈の検討に予想外の時間がかかったことがある。Allaisの解釈は『純粋理性批判』の各部を広くカヴァーする詳細なものであり、まずはその全体像を十分に把握するのに相当の時間を要した。また、彼女の解釈はカントに――Allais自身ですらおそらく躊躇するであろうほど――強健な実在論を押しつけるものなのではないか、という危惧を払拭することにも困難があった。(ただし、この困難は解決可能であるというのが目下の結論である。)Rosefeldtの解釈に関しては、彼自身が「反応依存性」概念に明示的に言及していることもあり、本課題研究のフォーマットとの親和性は高い。とはいえ、「研究実績の概要」に記したとおり、彼がカントに帰する立場は「実在論」と呼ぶにはあまりにも弱すぎる立場なのではないか、という危惧を払拭するには至らず、これについては「反応依存性」概念そのものの研究の検討の成果を得た後に、再度取り組む予定である。 予定されていた「反応依存性」概念そのものの研究は、まだ導入段階である。「反応依存性」理論のJohnston型とPettit型の区別、また、「反応依存性」理論は実在論を実現しうるか?といったテーマについての最近の論文を検討した。この研究は2022年度に引き継がれる予定である。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度には、まず前年度に引き続き、「反応依存性」概念そのものについての研究を進める。Johnston型の反応依存性理論がどのような意味で「実在論」たりうるのか、そしてそれがRosefeldtのカント解釈の意図を満たしうるようなものであるかの検討が中心となることであろう。この成果に基づき、求められる「カント的実在論」の輪郭がある程度確定されることになる。 続いて、特に知覚的認識についての懐疑論の様々なタイプを念頭におき、「カント的実在論」がコミットする反応依存性理論がどのようなタイプの懐疑論に対して、そしてどの程度の効力を持つのかを考察する。知覚的認識についての懐疑論に関して特に参考となるのは、D. Davidsonの意味理論である。(Davidsonは彼の意味理論と反-懐疑論を結び付けているので、彼の理論は目下の目的に適合している。)N. Goldbergは、Davidsonの意味理論が(特にPettit型の)反応依存性理論と親和性があることを示した。この考察を援用しつつ、Davidsonの意味理論を反応依存性理論として理解(あるいは再解釈)することを試み、その場合知覚的認識についての懐疑論はどのように退けられることになるのかを検討する。その上で、カント的実在論の枠組みで同様の議論を構築することができることを示す、というのが目下の目標である。 また、新型コロナウィルス感染拡大の状況にもよるが、可能であれば、本研究課題に関して、国内研究者を招聘した対面形式での公開研究会を数回行ないたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
全世界的な新型コロナウィルス感染拡大のため、予定していた国内・海外出張・公開シンポジウムを行なうことができず、剰余予算を2022年度に引き継ぐことになった。2022年度は、可能であれば国内・海外出張の学会・研究会参加を行ない、そのための渡航費・滞在費に予算を用いる予定である。
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