本年度はケンブリッジプラトニストの研究、ライプニッツの研究、および「永遠の哲学」の伝統において盛んに参照された古代の文献についての研究を重点的に行ったケンブリッジプラトニストに関しては、ヘンリー・モアの研究を中心にしている。モアはカドワースやライプニッツと同様に主知主義をとり、神の知性が永遠に普遍な正義を基礎づけていると考えて、デカルトやホッブズに反対の立場をとった。しかし一方で、モアは詩的な感受性豊かな人物であり、若年期に哲学詩には、理性や知性を介さずそれらを一足的に飛び越えて神に接することを語っているかにみえる箇所もある(そして、エマーソンはモアのそのような側面をかぎ取ってか、『大霊(oversoul)』の冒頭でモアの詩の一節を引用したのであった)。 ライプニッツに関しては、前年度に引き続き、彼が永遠の哲学の伝統に属する人物たちをどう論じてきたか、具体的には、ゾロアスター、ヘルメス、ピュタゴラス、プラトン、アリストテレス、プロティノス、プロクロス、フィチーノ、ピコ、ステウコ、ド・モルネーといった人物の扱いがどうなっているかを精査したとともに、彼の中国哲学論についての研究を深めた。彼は『詩経』『書経』を原典で読んだ形跡がないが、しかしこれらの書物を明確に、「永遠の哲学」の古典に含める意図をもっていることが明らかになった。 古代の文献については、まだまだ至らない点もあるが、『カルデア神託』『ヘルメス文書』『オルペウス讃歌』『黄金詩』、プロティノスなどの新プラトン主義者たち、初期教父たちについて概観することができた。
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