研究課題/領域番号 |
20K00019
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研究機関 | 南山大学 |
研究代表者 |
中尾 央 南山大学, 人文学部, 准教授 (20720824)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 戦争 / 考古学 / 人類学 |
研究実績の概要 |
昨年度までにおいて,特に先史時代の戦争の頻度を経験的な基盤とする偏狭な利他性の進化モデル(parochial altruism model)について,進化学,人類学,考古学,心理学などの観点から批判的に検討し,その成立基盤が危ういことを考察した.本年度は考古学的・人類学的証拠から,この先史時代の戦争について詳細かつ多角的な検討を行った. 第一に,すでに縄文時代や古墳時代に大規模な戦争が行われていなかった可能性は指摘されているが,特に後者に関して,より具体的な資料に基づいて検討を行った.西都原考古博物館に所蔵されている古墳時代の代表的な殺傷人骨や古人骨,また日本全土における縄文,弥生,古墳時代の古人骨を検討することによって,特に古墳時代に関する争いの痕跡がどのような性格のものかを明らかにした.西都原考古博物館所蔵の島内地下式横穴墓出土古人骨に残された傷は戦争のような争いによって残されたものである可能性は低く,古墳時代の戦争に関しては従来の見解を裏付ける結果となった.また古墳時代古人骨全体を見ても,戦争が行われて地域ごとに独立性が高まるというような結果にはならなかった.ただ,中期においてのみ,他の時期とは少し異なる様相を見せるため,この時期の社会的・自然的変化が関係しているのかもしれない. 第二に,弥生時代北部九州における甕棺埋葬のさまざまな属性について時空間的変動を検討し,それが戦争などの社会変化とどのように関連するのかを考察した.予想通り,争いの頻度が増加する時期と連動し,甕棺形状や甕棺埋葬方位の変化が見られたが,後者については埋葬儀礼の進化的予測とは異なる結果が得られており,次年度にはひとまずこの結果を論文化すべく,執筆を行なっている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度の研究成果をより進展させることができたため.
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今後の研究の推進方策 |
最終年度になるため,これまでの成果をうまく取りまとめて成果発表に繋げる予定である.まずは弥生時代北部九州に関して,特に甕棺埋葬と殺傷人骨や争いの頻度,また人口増加や武器サイズの変化を検討し,北部九州における戦争の発生要因について見通しを立てる.その上で,これまで得られたさまざまな分野の知見と比較検討を行い,本研究課題の最終目標である哲学的考察との関連を検討する.
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次年度使用額が生じた理由 |
投稿論文のAPCに使用する予定であったが,一本のAPCが無料になり,またもう一本の査読が遅れ,翌年度にずれこんだため.後者については次年度に使用予定である.
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