研究課題/領域番号 |
20K00021
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研究機関 | 甲南大学 |
研究代表者 |
川口 茂雄 甲南大学, 文学部, 准教授 (90830050)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 九鬼周造 / 書簡 / J哲学 / 日本哲学 / 自由 / 偶然性 |
研究実績の概要 |
依然として、とくに年度前半においてコロナウイルス禍による社会活動の制限は大きく、二年前に計画していた事柄ではなくて、それぞれの時点において遂行可能な事柄を実行するかたちとならざるをえなかった。そのようではあるものの、昨年度にわずかしか着手できなかった①および④の事柄について、当年度は一定の進展を実現することはできた。コロナ禍下ではヴェテランの研究者との緻密な連携の確保に困難が大きくなる状況があるが、地域や社会の様子を見定めつつ、年度途中から小浜善信神戸市外国語大学名誉教授との連携をおこない、九鬼文庫に未分類のまま保管されていた資料の一定数について、調査検討の結果、これを九鬼自身の執筆による書簡草稿および九鬼宛の書簡として認定するにいたった。この認定は、日本哲学研究・日本哲学史研究においてひとつの画期をなす研究成果である。このことを2021年10月に大学の広報部署を介したプレスリリースのかたちで公開し、また新聞社による取材に対応した。 最終的に冬季の開催となった第3回九鬼周造記念講演会(甲南大学人間科学研究所主催)は今年度もまた、オンラインでの実施とならざるをえなかった。しかしながら内容としては、遠方からの参加来聴を可能としたうえでの、優れた登壇者を招いての充実した研究会を開催できたと言える。山口尚「偶然性と自由」講演をめぐってディスカッションがおこなわれ、「日本哲学」ないし「J哲学」の歴史と可能性と課題について、さまざまな角度から肉迫する、エキサイティングで貴重な機会となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
未整理資料を九鬼周造宛ての書簡および九鬼自筆の書簡草稿と認定したことは、日本の哲学研究・哲学史研究におけるひとつの記念すべき新たな段階を記す事柄である。国内外から注目もいただいており、この点で見れば今年度の研究進捗は十分なものと言うこともできなくはない。 しかしながら、新たなことに挑む研究はそもそも予定通り進展するものではないという一般論より以上に、コロナウイルス禍による制限と遅れを当研究事業が帯びていることに変わりはない。資料の認定は大きな一歩ではあるが、その先に待つ多くの段階を鑑みるならばなお第一歩にすぎず、多種多様かつ難読な手書き資料の内実の本格的検討を当事業の三年度間の範囲内においてどこまで進めることができるかは、見通しがきかないのが率直な現況である。したがって一年目にコロナ禍の発生によって生じた遅れを取り戻したとは言えない。
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今後の研究の推進方策 |
新発見資料・未整理資料にかんする分析作業は引き続き、コロナウイルス関連のそのつどの状況が許す範囲で、可能な範囲で実施をおこなってゆきたい(おそらく当初計画にあった海外での文献調査は残念ながら依然として遂行困難と思われる)。哲学史的な仕事への力点をも維持しつつ、オンライン形式での研究会の開催などは積極的に模索したい(ただし外的事情による延期の可能性などには柔軟に対応する余地を確保する)。年度内において可能な最大限の成果の現実化に向けて工夫に努めたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍下での、計画に比した研究実施の遅れがあったため。社会の状況をそのつど見定めつつ、遅れの取り戻しに工夫と努力をおこなう。
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