研究課題/領域番号 |
20K00024
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
城戸 淳 東北大学, 文学研究科, 准教授 (90323948)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | カント / 観念論論駁 / 超越論的観念論 / 時間 |
研究実績の概要 |
本研究は、カントの『純粋理性批判』第2版の「観念論論駁」を歴史的かつ体系的に解釈する試みである。方法論的には歴史的解釈と体系的解釈から成るが、以下ではそれぞれの成果の要点を示す。 歴史的解釈については、2021年度は、おもに同時代の批判と応答についての研究にとりくんだ。『批判』第1版に対する「ゲッティンゲン書評」は、第四誤謬推理の超越論的観念論をバークリー主義と断定した。常識学派の経験主義者たちやヤコービの信仰哲学などもカント批判の陣営に加わった。その他、観念論論駁への伏線としては、ウルリッヒ、シュルツ、アーベル、メンデルスゾーン、リードなどの同時代の状況があった。第2版の観念論論駁のあとも、遺稿のカントは、エーバーハルト等からの論難に応えるべく、観念論に対する論駁を試みる。この努力は晩年の『オプス・ポストゥムム』の思想圏に繋がる。晩年のカントは、シェリングなどの新世代のドイツ観念論者たちと対峙しつつ、「超越論哲学の最高点」を求めて努力を続けていた。 体系的解釈としては、時間論の観点から観念論論駁を考察した。観念論論駁は「時間において規定された」私の現存在の意識に訴えるから、時間論としての一面をもつ。観念論論駁の背景には、自我の内側に時間的な持続物とその変化を認めない超越論的感性論の第7節や、実体の持続性を証明する第一類推、外界から孤立した人格同一性の時間的意識を批判する第三誤謬推理などがあり、さらに第2版では、時間の直観には空間的描出を要するとする議論(B 154, 156, 292)が追加される。空間的な外的感官の優位性を論証する観念論論駁は、時間的な内面性とその外界との繋がりに関するカントの粘り強い思索を踏まえたものである。 カント研究の成果を盛りこんで、単著『ニーチェ──道徳批判の哲学』を刊行し、ニーチェに受け継がれたカントの超越論的批判の方法について解説した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ながびくコロナ禍の影響により、ひきつづき教育活動に大きく時間をとられ、また研究会や学会などを開催あるいは訪問することもかなわず、研究の進捗状況は総じて思わしくない。研究としては、先行研究の状況を網羅的に調べるのに時間をとられている。ただ、基礎的な読解や思索は進めているので、今後はそれを成果として発表できるよう精進したい。
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今後の研究の推進方策 |
やや遅れた上述の進捗状況を取りもどしつつ、当初の研究計画に沿って研究を進める予定である。ただし、実地での研究会や学会等はまだ難しい場合があり、その点では困難はひきつづき予想される。 2022年度は、歴史的研究としては観念論論駁の現代哲学への継承について、また体系的研究としては 観念論論駁における自己認識論について検討したいと考えている。基礎的な読解作業と思索に時間を費やすことを願っている。
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次年度使用額が生じた理由 |
ひきつづきコロナ禍の影響により、現地の会場での研究会の開催や、学会等への出張がかなわず、旅費やそれに伴う支出が0円におわった。支出は物件費だけにとどまり、その結果、大きく繰り越すことになった。2022年度は状況を見ながら、可能なかぎり旅費を使用して、研究活動の活性化に繋げたいと考えている。
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