本研究の目的は、謝罪と許し、道徳感情、そして責任論における非難の分析を通じて、非難の哲学・倫理学研究の評価基盤を構築し、それを評価することである。最終年度となる2022年度では、国内外から関連する研究者を招聘し、国際研究会を開催した(The 5th research meeting on the Philosophy and Ethics of blame)。ここでは、自由意志問題、復讐の倫理学、刑罰論の観点から責任帰属について議論がなされた。また、米国から招聘した外国人研究者による「非難可能性に関する帰属主義」についての講演をもとに、「非難に値する評価的態度の帰属を責任帰属の十分条件としてよいかどうか」が検討された。研究会から得られた成果としては、帰属主義をとるならば、評価的態度が現れる人間間のコミュニケーションが総じて非難の対象であり、これが最も広い非難現象の外延であることが確認された。また、非難の関連する規範的領域の条件として、その心情や行為に行為者の評価的態度が表明されうるという点が確認された。 研究期間全体を通じて得られた成果は、申請者の提唱する「非難の関係性理論」の限界というネガティブなものである。上記の成果により、帰属主義をとるならば不特定多数を非難の対象とする差別などの事例をよく説明できることが明らかになった。しかし、この領域すべてを非難の関係性理論は扱うことができない。とはいえ、このような非難については複数の関係性の連関から考察することが可能である。本研究の成果として、関係性連関について検討という今後の課題が得られたのは研究の進展にとって大きいと言える。その一方で依存症などの分野では、閉じた関係者内の責任実践に焦点が当てられるため、関係性理論に優位性が見られる。このように、自身の理論のメリット・デメリットが明確に示された点が本研究の成果である。
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