研究課題/領域番号 |
20K00033
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
笠木 雅史 広島大学, 人間社会科学研究科(総), 准教授 (60713576)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 認識論 / メタ倫理学 / 知識 / 認識的正当化 |
研究実績の概要 |
本年度の実績として、「厚い評価と進化論的暴露論証」、「さまざまな阻却理由とその機能」とそれぞれ題した2つの研究発表を行い、それに関連する研究を現在も継続している。 「厚い評価と進化論的暴露論証」では、道徳認識論において阻却理由によって道徳的信念の正当化を否定する論証の代表例である進化論的暴露論証を検討した。この検討の結果、進化論的暴露論証による正当化の阻却が成功するためには、道徳的信念形成の方法が画一的であるという想定が必要となるが、この想定を否定する根拠が幾つか存在することを示した。この点を一般化することで、阻却理由が機能するための条件を幾つか特定することができる。 「さまざまな阻却理由とその機能」では、より一般的に、阻却理由がどのように正当化や知識を阻却するかについての分類を行った。知識や正当化のさまざまな必要条件に対応する阻却理由が存在し、どの必要条件を否定するのかによって阻却理由が異なる。この分類は、従来提示された阻却理由の分類に比べ、より一般的であり、また一貫性を持つという点に長所がある。 これら2つの研究では同時に、従来言われていたような形で特定の阻却理由が機能するかはかならずしも自明ではないという指摘も行った。特に問題になるのは、信念形成方法の信頼性を否定するタイプの阻却理由は、なぜそれが一人称的な正当化の否定につながるのかが自明ではない。この点については従来想定されるだけで、ほとんどその説明が行われてこなかった。「さまざまな阻却理由とその機能」では、この点についての説明として、自分が知らないということを示す理由は、一人称的正当化を否定する理由になるという説明を与えた。この説明を十分に発展させることが今後の課題である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
コロナ禍のため、日本内外の研究者がさまざまな困難に直面したこと、また特に国際学会への参加の機会が減ったことにより、国際的な連携を行いつつ本研究を進めるという当初の予定には遅れが生じている。しかし、国内で進化論的暴露論証に関心を持つ研究者を集めて、研究を検討する機会を設けたり、国外の研究者とも断続的ではあるがオンラインで研究を検討してもらったりすることで、ある程度従来の予定を遂行することができている。ただし、本研究が最初にとりくんでいる阻却理由の新しい分類を提示するという研究は、非常に広範な領域をカバーするものであるため、当初の予定よりも多く時間がかかることとなった。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究で明らかにしたことの1つは、信念形成方法の信頼性を否定するタイプの阻却理由は、なぜそれが一人称的な正当化の否定につながるのかが自明ではないという点である。この点は、従来の研究でもまったく十分な検討が行われていない。そうした研究が行われていない主要な理由は、一人称的な正当化はそもそも知識の必要条件ではないと考える論者が多いためである。しかし、この考察は、阻却理由の機能について一人称的な観点を重要ではないとするためには不十分である。なぜなら、ある条件が知識や正当化の必要条件ではなくても、それを否定する阻却理由を排除できることは、知識や正当化の必要条件と抵触すると考えることが可能だからである。このことは、阻却理由が機能する仕方については、単独の条件だけではなく、他の条件も含むより包括的な視点が必要となるということである。本研究が取り組んでいる阻却理由の機能の分類は、このような点で包括的なものを目指している。今後は、一人称的観点の重要性についての説明をより発展させ、現在行っている分類により十分な説明力を持たせることを目指す。 本研究では、倫理的、実践的な阻却理由の機能も研究対象としている。現在のところ、これらの阻却理由については、まだ従来の知見の整理を行っている段階である。今後、本研究の制作する阻却理由の機能の分類の中にそれらを位置づける研究も行う。 こうした2つの方策により、阻却理由の機能やその成立の条件について包括的な解明を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍により予定していた学会発表や在外研究を行うことができなくなり、状況が改善した後に延期することにしたため。
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